能力荘の非凡な毎日 (ページ27)

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春と奮闘の爪痕　２【御薬袋涼雅】ページ27

「えーと、今のところだと雫さんかなぁ。躑躅森さんは今籠ってるし。運が良ければ蓬莱さんじゃないかな？」
雄琴と呼ばれたおっさんは、鷹央さんの返事を聞いてチッ！っと、自分の不愉快さを示すかのように盛大に舌を打ち鳴らした。
　「……久しぶりに帰ったと思やあ誰も飲む奴いないのかい。せっかく牡丹雪と目倉が酒に合う唐揚げこさえたのによ」
　「あ、駒ヶ岳さんはどう？」
あん人もよう飲むよ、とすかさず補足する。ああそうか、とおっさんが相槌を打つ。
　「確かに、駒ヶ岳も飲むなぁ」

おっさんが鷹央さんの言葉を反芻するためか目を伏せて腕を組む。
鷹央さんがしばし思案状態となっているおっさんに笑いかけながら言った。

　「とりあえずさ、ご飯食べたらどう？」

　 ☆★☆★

　「ていうかさ、なんで銃口が頭向いてんのに笑う訳よ？」
　「決まってんだろ、犯人煽るんだよ！で、大体の奴がビビるんだよ！」
　「マジかよ！おもしれぇ！」
　「んでもさぁ～、なんで煽る必要があんの？」
　「確かに言われてみればそうかもな…」
　「おい若造、何言ってんだ！煽ったら隙が出来るだろうが！」
おっさんの答えに、俺たちは声を揃えて頷いた。
　「「「あーーーーーッ！」」」
おっさんは雄琴常盤というらしい。しかも職業は刑事だった。くすんだ桃色の髪の女子高生―猫羽ナナシさん、絵画修復師でたった今まで仕事をしていた躑躅森白金さんら三人が夕食の場に加わってからは、先ほどのような調子で、バカ話に花を咲かせていた。

　「いやぁ、雄琴さんの話はいつも面白いねぇ」
　「おう、有難うな」

躑躅森さんがもう五本目くらいの缶ビールを呷りながら呟く。雄琴さんは、口の端をニヤリと吊り上げて不敵な笑みを浮かべた。
　「ってか皆さん、メッチャ飲みますね」
　「だろ～？」
躑躅森さんが先ほど飲んでいたはずの缶ビールの空き缶を、自身の前にドスン！と置いた。
六本目の缶ビールのプルトップに人差し指を掛ける躑躅森さんの姿は、大酒飲みそのものだ。
「うちの能力荘の人、結構お酒飲む人いるからね」
「だよなぁ～」
躑躅森さんの言葉に頷く雄琴さんは、缶ビールよりは日本酒を好むようだ。
昔親父が飲んでいた、酒のパッケージには、見事な字で酒の名前が書かれていた。

そんな他愛のない話をしているうちに、夜はどんどん更けていく。