能力荘の非凡な毎日 (ページ12)

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前菜ニヒリズム　２【御薬袋涼雅】ページ12

　「ふぅ、うまかった…」
俺は汗をかいているガラスのコップを手に取り、きゅーっとレモンティーを呷っている俺に、美少女が問うた。

　「あっ…あの、お名前は…？」
　「俺っすか？御薬袋涼雅って言います！えーと、昨日引っ越してきたばっかりなんです」

とか云っても昨日はそのままぶっ倒れるように寝たけどな…と、俺は心の中で苦笑交じりに呟く。

　「御薬袋さんって云うんですね…。ご家族は？」

そう云う彼女の声には、若干の申し訳なささが混じっていた。
この明るい昼食タイムを暗いムードに染め上げてたまるかと俺は出来る限り明るい声で答えた。

　「中三の春に事故で二人とも死んでます。あ、今は高1っす」

明るく云ったつもりが、少しばかりか声が上擦ってしまう。
が、彼女は重たい事情をあっけからんと話す(と、云ってもわざとだが)人間を始めてみたのか奇麗な目をぱちくりさせた。驚いているようだった。
ていうか、人の事故の話を明るく云うのは間違ってんだろ！
俺は、数分前の自分に向かって心の中で吼え立てる。

　「あ、君は？」

　「ひ、陽溜咲桜…です…！い、一応16歳です…！な、名前負けしてますよね…っ！」

　「１６歳！同い年じゃないですか！」

俺はつい大きめの声を出してしまった。
食堂、居間、厨房にいた住人の視線がぱっと俺の方に向かって注がれる。
こういう事には慣れてないもんで、俺はいそいそと話を逸らそうと口を開いた。
が、そこでとあるワードが引っ掛かった。

　「…名前負けとか、別に決めなくてもいいんじゃねえっスか？」
　「……え？」

彼女は驚いたように目を見開き、なにもなくなった皿を積み重ねる俺を凝視した。
俺は彼女の視線を肌で感じ取りながら、重なった二枚の皿の上に空っぽのコップを置く。

　「え、でも」
　「名前負けてたら、誰が名前勝ちなんだっつーのって話ですよ」
　「確かに…そうかもです…ね」

自分に言い聞かせるかのように呟きながら、彼女は頷いた。
そして、ふっと笑った。
今日一番の笑顔だった。