『人形の夢と目覚め/第一話』 ページ2
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
気がつくと、真っ暗な世界に一人立っていた。
月の届かない夜にとぷりと浸かった空間に広がる静寂が、何処までも続く暗い水面のようだった。
ここは…。
僕は辺りを見廻した。
遠く、遠く、ずっと向こうまで、境の見えない暗闇が広がっている。視線を落とすと、不思議と自分の姿ははっきりと見えた。
前後も分からないまま、僕はその空間へ一歩踏み出した。
足音は黒に吸収され、今本当に自分が歩いているのかさえ朧気だった。僕は、ただ只管にこの空間を行く宛も無く漠然と彷徨い続けた。
歩かなければいけない気がした。僕に残された選択肢は、進むのみだと脳に浮かんだからだ。何処に向かっているわけでもない、何処に行き着くかも分からない。
ただただ足を動かし続けた。
どのくらい進んだのだろうか、不意にどくん…どくん…と落ち着いた音が反響する。
僕が発している音か、はたまた別の音なのか、それは分からなかった。
僕は足を止めた。
何もかもがぼんやりとしたこの空間でその音は唯一の救いに思えた。
どくん…どくん…と規則的に発せられる音は遠く広がる水面を静かに揺らした。
何もなかった空間に小さな変化がもたらされる。
奇妙な状況であるにも関わらず、僕は不思議と心地よさを覚えていた。
鼓膜に響き続ける振動は子守唄のように、肌を包む宵闇は暖かなタオルケットのようにぼぅと佇む僕を安心させた。
パッと、暗闇の奥で炎が灯った。その鮮やかな炎に触れようと手を伸ばすも、僕が触れる前に跡形もなく消え去ってしまった。
何処かで嗅いだ、微かな花の香りだけがその場に残った。
僕は行き場を無くした手を下ろした。
その虚空を見つめた。
風が通った。
呼吸の音が聞こえる。
生命の活動が鼓動に合わせてゆっくりと、穏やかに。
僕のすぐそばで炎が灯った。先程より不確かで朧気な、消えてしまいそうな小さな淡い火だったが、引き寄せられるような、今すぐ触れたくなる衝動に駆られる。
一層大きくなった鼓動に合わせて炎がゆらと揺れる。
微かに感じる温もりが、確かにそこに存在していると知らせてくる。
僕は迷わずそれに手を伸ばした。途端、轟音と共に激しく燃え上がる。地獄の業火のように荒々しく、猛烈で焼け爛れるような炎に僕は一瞬で飲み込まれた。
「ーーーー？」
―――――――――――――――――――――――――――――
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 417人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みん。(プロフ) - 夜さん» 数多ある作品の中からここを覗いて下さりありがとうございます、さらにコメントまでいただけるとは光栄に思います！これからも夜様に楽しんでいただけるような、素敵な作品になれるよう心を込めて執筆して参ります！ (2023年4月17日 1時) (
レス) id: febc79156f (このIDを非表示/違反報告)
夜 - とても素敵なお話で一気に読み終えてしまいました！この先どんなお話になるのかわくわくです！これからも作者様のペースで更新頑張ってください！ (2023年4月16日 21時) (レス) id: c9a43346ff (このIDを非表示/違反報告)
みん。(プロフ) - 朱憑さぶさん» 前作をお読みくださりありがとうございます！嬉しいお言葉に舞い上がっております！そしてご指摘を受けるまで気づかなかった私自身に吃驚しております、教えていただき感謝です！！ (2023年3月19日 4時) (レス) id: febc79156f (このIDを非表示/違反報告)
朱憑さぶ - 前作から来ました。とても素敵な作品ですね！お師様Pにはたまらない作品でのめり込んでしまいました、！ところでなのですがオ,リ,フ,ラ立っちゃってます…早々に回収していただけると助かります… (2023年3月18日 23時) (レス) id: 2394de2614 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みん。 | 作成日時：2023年3月9日 23時
