あの日のこと ページ19
*
「ねえ、Aって自炊してる？」
「え？うん、まあ。してるけど」
「・・・ふーん」
「どしたの、急に？」
「いや。最近さ、人が作ったものが食べたくて仕方ないんだよね。やっぱ俺、一人暮らし向いてないかも」
そう言いながら、大きなカツの塊を口に入れた。
いや、あなたが今食べてるそれも一応人が作ったものだと思うんだけれど。
私はいそいそと休む暇なく動きまわる学食のおばさん達にチラッと目を向け密かに同情した。
「それは、手料理ってやつ？」
「そう、手料理が食いたい」
ルーとライスを私の中で決めれれた対比で掬い取り、口に運ぼうとして手を止める。
「・・・じゃ、家来る？」
自分の声が自分じゃないみたいな、そんな感覚に違和感。
きっと、震えていたんだと思う。
ジョングクはと言えば、リスみたいに頬袋を作って間抜けな顔。
「え、いいの？オムライス・・・あ、ハンバーグ食べたい俺」
そういって笑った後、また黙々と食べることに集中し始めた。
一世一代の告白のような誘いをした私に対して、彼はあまりにも軽いノリでそう言いのけた。
勿論、手料理を振舞うどころか、彼が家に来ることはなかった。
変わらない日々変わらない関係。
このままでもいいのかもしれない、そうやって胡坐をかいていた私。
けれど、彼を取り巻く環境は確実に変わっていった。
いつの間にかバイトをはじめ「そこの賄いが旨くて太る」と笑いながら私に愚痴った彼。
私の知らない名前を当たり前みたいに口にした。
時折みせるようになった妙に大人びた表情と遠くを見つめる知らない人みたいな横顔。
「早く大人になりたい」と、呂律の回らない声で本音を呟いた彼。
その変化は手に取るように分かってしまって。
私の知らない空間で私の知らない人に、私がそうするようにもしかしたら彼も。
そうして気づいた時には何もかもが手遅れだった。
「俺、彼女できた。同じバイト先の先輩」
秋も深まりつつあったあの肌寒い日。
落ち葉を踏む音に混じって耳を貫いた残酷でいて甘酸っぱい響き。
浮かれるわけでもなく、でも少し照れたようにはにかんでみせたジョングク。
新しく新調したという黒のチェスターコートがよく似合っていて、その日はいつも以上にドキドキが止まらなかった。
「・・・おめでとう」
今でも考えてしまう。あの日の私はうまく笑えていたのだろうか、と。
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あ(プロフ) - これ続き消しましたか？ (2020年8月4日 2時) (
レス) id: 3dd0ee7796 (このIDを非表示/違反報告)
zin(プロフ) - 上手くいかない、もどかしい、哀しい、辛い……。本当に切ないです。でも お話に出てくる子達が主人公をはじめ、みんなイイ子で魅力的です。ミンギュ君 テヒョン君、ナイスです！やっぱり私は胸が痛くなるけど 切ないお話が大好きみたいです^^ 更新楽しみにしています。 (2017年11月4日 1時) (レス) id: f535f69715 (このIDを非表示/違反報告)
いっちゃん - ミンギュ出てきた！ちょー嬉しい！！テテの「月が綺麗ですね」って言うのに凄くキュンキュンした！でもそれに「それ言われたら、死んでもいいって返すんだよね。」って言った主人公に一瞬、戸惑ったわww作者さいこーww (2017年11月3日 22時) (レス) id: 3d31ebd9bc (このIDを非表示/違反報告)
めぐ(プロフ) - オトコトモダチが1番大好きで更新されるの楽しみにしてます！ (2017年11月3日 6時) (レス) id: 4dbcce6e2c (このIDを非表示/違反報告)
マル - ヤバイです！めちゃくちゃキュンキュンします！2人の関係性が羨ましすぎで夜中にキュンキュンしてしまいました(^_^)更新楽しみにしてます！ (2017年10月28日 2時) (レス) id: 9861427ca3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：豆乳 | 作成日時：2017年7月2日 20時
