ヒツジと狼スピンオフ #tokyo-revengers (ページ6)

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クスリ④ ページ6

ここに来たときから
いや、来る前から

もう何も元通りになるものはないんだって
一度手放したものが戻ることはもう、ないんだって

それでもいいって、思ってた。

そうしてでも、一緒にいたかったのだ。

「A、危ねぇから戻って」

「…」

「A」

「竜胆くん、」

「…」

「私、竜胆くんでも同じことすると思う」

「…」

「私のこと怖がらせたくないって、ずっと思ってくれたの知ってるから」

彼らの仕事を否定するのも、はたまた肯定するのも
それは私の立場じゃないって理解している

何も言っちゃいけないんだろう
首を突っ込まないように、足枷にならないように

社会から切り離された大切なひとが、
私を大切だと言ってくれるそのひとが、

私を怖がらせたと言って、泣いてくれるそのひとが

もうそんな理由で泣きませんように。

「春千夜、」

竜胆くんが連れて来てくれた部屋から足を運ぶ

大きな物音
叫び声

私の知らない、春千夜だ

「Aちゃん」

「…怒る？」

春千夜がいるであろう部屋のそばで
ニコニコと笑いながらケータイで動画を撮っていた蘭ちゃん

私がそこに行くのを察したのだろう

「…やっぱAちゃんさぁ、いかれてんね」

「…あの人と一緒にいたからね」

「三途に甘くてずりー」

「録画一緒にみようね」

「約束だかんな～？」

泣き虫だって言うけれど
実際、小さいころは春千夜のほうが泣き虫だったし

でも度胸は誰よりあって
負けん気も強くて

でもどこか、危なっかしくて

「春千夜」

焦点の合っていない目
暴れているせいで傷ついた身体
さっきの仕事でついたのであろう、返り血

乱れた息と髪

すぐ目の前まで足を運ぶ

猫みたいだって、いつか思ったことを思い出す

「…春千夜、」

だからそばにいると安心する、って思ったことも

「…」

抱きしめたその身体は、血のせいか春千夜の匂いはしなくて
動きをぴたりと止めた春千夜に、本当は少し怖気づいていた。

あまりにも何も言わないから不安になって
でも黙って私に抱きしめられ続けてるその心臓が、規則正しく脈打っていて

いかれていると、言われる私はそれに安堵する。

「…春千夜、」

「…」

「おかえり」