検索窓
今日:2 hit、昨日:3 hit、合計:773,521 hit

幕間、あるいは喪った記憶 ページ50

-


その女は、
足が宙から浮いたようなヤツだった。



艶やかな黒髪にやや茶色い黒の瞳。
俺たちを見て困ったように笑うその仕草も、時折どこか遠くを見た虚なその眼差しも。

恩師の死を悼み
同胞の死に涙を流す姿も。

夜中に一人きり。
膝を抱えて夜明けを待つその背中も。

その感性は呪術師よりも一般人に近い、
ただの平凡な女だった。



それ故、
五条の名を恐れることもなく、平伏すまでもない。
誰に対しても同じような生温い温度で接する単調さ、言い換えれば一種の無頓着さは寧ろ心地よかった。




だからこそ、
時折この女がよくわからなくなる。



術式の異質さ。腕に見合わない級等。上層部から受ける見えない首輪。出処の分からない知識。



遥か遠くの異国の言葉を操るように、
彼女は時折。世界について語る。




「空と海。

天と地。

暖気と寒気。

昼と夜。

星と星。

過去と未来。

この世界にはいろいろな《境界》があるの」




体はベッドに横たわっているのに、その喉は明朗に音を発する。




「《虚式》の術式はそんな《境界》を跨ぐ術式。

悟の術式はきっと、《順転》と《反転》の無限。その境界を跨ぎ無限の最果てにたどり着く術式かな」




そう、彼女は言った。


オレと傑は任務中、変な空間へ迷い込み三日間ほど行方不明になったらしい。
しかし、オレにはその時間の記憶はないし何故か救出に赴いた霜宮Aが倒れる始末だ。


そして今、彼女の病室で彼女は《茈》について語った。



「それだと言うのに、キミは反転術式もろくに使えないのに、境界を越え仮想物質を現実のものとしようとした……。

だめだよ?

そんな事をしたら、世界に《穴》が開いてしまう。本来ならそんな《世界の狭間》に落ちたら誰も救ってくれないんだから」



困ったように笑って、するりと髪を撫でた。
労わるように、懐かしむように。



「…でもオレに、その隙間?に落ちた記憶の差とかないんだけど」



「そりゃそうだよ。

《あっち》は《こっち》と違って時間の概念に依存してない。
つまり時間の積み重ねが存在しないなら経年劣化もしないけれど、そのかわりこの世界に戻った時にこの世界との辻褄が合わずに、存在が保てなくなるかもしれない。


まぁ、その辻褄合わせのために頑張ったらこうなったわけなんだけど」





だから、その時間そのものが無かった事なのだと彼女は言った。




この世ではない場所。
その場所での記憶を、少し惜しいと思ってしまった

この小説の続きへ→←47. 疆域に陥ちる



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (299 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
699人がお気に入り
設定タグ:五条悟 , 呪術廻戦   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

かるうら(プロフ) - 50話分しかなかったはずなのに、今までにないくらいの重量感で恐れ入りました。なんだか第5章くらいまで読んだ気分です。2章に行って参ります! (2020年8月3日 21時) (レス) id: 2c64977e89 (このIDを非表示/違反報告)
サイコロ - 最の高だ…推しが絡んでる… (2020年3月19日 16時) (レス) id: d3e3d1ba1a (このIDを非表示/違反報告)
さとう - とても面白いです!応援してます! (2020年3月9日 19時) (レス) id: 74e459d58c (このIDを非表示/違反報告)
朱鷺(プロフ) - 吉田さん» いいえ!神様は芥見下々先生です!!!でも、そう思ってくださり嬉しいです (2020年3月6日 22時) (レス) id: b5f5114d16 (このIDを非表示/違反報告)
吉田(プロフ) - 作者様は神でしょうか?( ˘ω˘ ) スヤァ… (2020年3月5日 1時) (レス) id: fb4495920c (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:朱鷺 | 作成日時:2020年1月19日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。