19.おとなとこども ページ21
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「A、A、、、」
どこか遠くで名前を呼ぶ声が聞こえた。
半分覚醒した意識が物理的に揺さぶられ、だんだんと目蓋が開いていく。
寝起き特有の怠みに、自分が夢を見ていたことを知った。
「A先輩、うなされてましたよ?」
頭上から声がして、そこでやっとじぶんがいま悟の膝を借りていることに気がついた。
どうやら、映画を見ながら寝てしまったらしい。そしてそのまま、悟の方へと傾いたようだ。
「すみません、寝苦しそうだったので起こしてしまいました」
「あーいいよいいよ、傑。むしろ起こしてくれてありがと」
ゆっくりと起き上がると、あー重たかったーと悟が子供みたいな声を出す。
悟は嫌なら嫌と言う子だ。
今回寝ている間になにも言わなかったのなら、その言葉に意味はないんろう。
実際に過去に何度か床に頭をぶつけている。
「いつも夜更かししてる先輩見てましたけど、寝てる先輩は初めて見ました」
「そーいえばそうかもね」
「まだ夜じゃねぇし、、、A体調悪いのか、」
「……いや、冬だからかな。冬は嫌いなの。寒いし、夢見も悪いし」
気を遣ってコップにお茶を注いでくれた傑にありがとうと言う。
久しぶりに、あの人の夢を見た。
私の転換期となった、今は亡き彼の夢だ。
頭はどこかぼんやりしている。
………、そういえば私が一年生の時の話だからこの子達は彼のことを知らないのか。
そう思うと少し寂しい。
この思い出は、一人だけのものか。
襲ってきた脱力感に任せるままに、また悟の膝に逆戻りした。
驚いたようにサングラスの奥の綺麗な瞳を瞬かせる悟にニヤリと笑う。
悟は仕方ないなぁとでも言うかのようにため息をついて、見ていた映画の再生ボタンを押した。
見ている映画は、死者が蘇るというギャグとシリアスを入り混ぜたような洋画だった。
生き返った彼が成仏するため、生前の願いを叶える主人公。
しかし、彼はそのうちに消えて欲しくない、成仏せず怨霊としてこの世に残ってほしいと願ってしまうようになる。
……少なくとも呪術師が見るような話ではなかった。
所々ツッコミを入れながら映画を見る二人をぼんやりと眺めながら、思い出した。
「あぁ、もうすぐあの人の命日か……」
一年たった今でも。
目を閉じると、あの凍えるような雪を鮮明に描ける。
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かるうら(プロフ) - 50話分しかなかったはずなのに、今までにないくらいの重量感で恐れ入りました。なんだか第5章くらいまで読んだ気分です。2章に行って参ります! (2020年8月3日 21時) (レス) id: 2c64977e89 (このIDを非表示/違反報告)
サイコロ - 最の高だ…推しが絡んでる… (2020年3月19日 16時) (レス) id: d3e3d1ba1a (このIDを非表示/違反報告)
さとう - とても面白いです!応援してます! (2020年3月9日 19時) (レス) id: 74e459d58c (このIDを非表示/違反報告)
朱鷺(プロフ) - 吉田さん» いいえ!神様は芥見下々先生です!!!でも、そう思ってくださり嬉しいです (2020年3月6日 22時) (レス) id: b5f5114d16 (このIDを非表示/違反報告)
吉田(プロフ) - 作者様は神でしょうか?( ˘ω˘ ) スヤァ… (2020年3月5日 1時) (レス) id: fb4495920c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朱鷺 | 作成日時:2020年1月19日 23時