拾伍 ページ31
(だ、大丈夫と信じよう…。)
涙を流してこちらを振り向く彼に愛想笑いで返した。
以前より喜怒哀楽が激しくなっている長谷部に戸惑うしかない。
でも、長谷部が来てくれて良かった。
長谷部はしっかり者だから、二人をちゃんと連れて帰るだろうし、恐らく帰り道も分かっているはずだろうし、もし彼らの審神者に聞かれても適当に誤魔化してくれるだろう。
よって、長義とのあの取引は意味がなくなったのだ!!
全て解決だ!
「長義、さっきの取り決めはなしってことでいいわよね?」
「……ちっ」
ぼそっと彼に言えば、舌打ちをしてきた。
ガラわるっ
あの紳士で優しい長義くんはどこにいったのだ。
そもそも私に何を頼むつもりだったんだろう…?
(後で聞いてみよ。)
許容範囲内だったら、聞いてやらないこともない。
「最後に一つお聞きしたいのですが…。」
「うん。」
「隣にいる曲者は一体どなたですか?」
長谷部は作ったような笑顔でじっと私を見た。
隣……?
ばっと、見ればそこには長義が立っている。
「…あ」
…なんて説明すればいいんだ。ぱっと思いつく言葉が出てこない。
「それ俺も思った〜。なーんか馴れ馴れしいよね、お前。」
加州のそのなりははっきり言って敵意むき出しで声のトーンは明るいのに、その目付きとその行動は裏腹だ。
「紹介するわね!
私よりも賢い長義くんよ!特技は毒舌?で、趣味は私の嫌味を言うこと?
まあ、そういうわけでーあいたっ!!」
「何がそういうわけだ。紹介に俺の嫌味を折り込むな」
思いっきり頭の上からチョップが降りてきて頭に直撃する。
「貴様…、俺の前でそのようなまねをするとはいい度胸だな。
取り敢えず、死ね。」
「……。」
「……殺す。」
「エッ??」
目の前で三人が禍々しい気を放ちながら長義を見ている。
長谷部の声は落ち着いているが、発言の内容からお分かりいただけるだろう……かなり怒っている。
大和守は微笑んでいるがもちろん黒い微笑みで、無言で刀を抜いている。
加州なんてこの世の敵を見ているかのような眼差しだ。その冷たい顔…きっと歴史遡行軍にすら見せていないと思う。
その長義くんはだ。
なぜか物凄く盛大なため息をついて、"だから関わりたくなかったんだ。"と言っている。
彼と出会って約60日ほど、久々に悪かったと酷く感じたのだった。
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作者名:沙恵燬 | 作成日時:2019年2月1日 1時