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「お母様ー？お母様ー！？」
母を呼ぶ声が次第に大きく、緊迫した調子になるのが分かる。
この世界にA1人だけ取り残されてしまったかのような感覚に襲われ、彷徨う足も震えながら次の場所へと向かっていた。
お風呂場、いない。
食堂、いない。
書斎、いない。
物置部屋、いない。
ディアンの部屋、いない。
お母様の部屋、いない。
お父様の部屋、いない。
あとは――。
長い廊下を走っているうちについには端のほうに辿り着く。
見えたのはそう、Aの部屋であった。
ここにはいないだろう、そう予想をつけていたけれど、不可解な点があった。
しっかり閉じていたはずのドアが開いている。
「……っ…」
そっと覗いてみて、Aはひゅっと息を飲み込んだ。
しわくちゃになったシーツに、すべて出されたままの棚。
無残に倒れ中身が飛び散らかされたおもちゃ箱、そして、床のそこらじゅうに何冊もの本が放り出されている。
Aの部屋が荒らされていたのだ。
彼女に泥棒が入ったといった案は一切浮かばず、それ以前に泥棒という存在を知らなかったのだが、まだ幼い少女に恐怖を植え付けるには十分であった。
一体誰がこんな酷いことを――。
お母様はこんなことをするような人ではないし、されるような理由も微塵もない。
他に思い当たる人物は…いや、まさか…。
最悪の事態を想像してしまったAのもとに、更なる災いが降りかかる。
先ほどから聞こえてはいたのだ。
けれど聞こえないふりをしていた。
なぜかって、それは勿論、認めたくなかっただけだから。
どこからか微かに漏れる嫌な音。
それに字で音を書き表すとすれば、ビリビリ、いや、ビリーッ。
ビ、ビリー、ビリリッ、ビーッ…。
ガムテープを剥がすときのような、何かを無理矢理引き剥がすような不快な音。
嫌な記憶が蘇った。
昔、といっても1年か2年か前に読んだ絵本に、こんな話があった。
絶対的支配者である王に不満を抱いた1人の民が、剣を持って王の首を斬ろうと襲いかかった。
しかし民は王の家来たちによってすぐに取り押さえられ、憎き王の手によって直々に処刑された。
その刑の名は、皮剥ぎの刑。
全身の皮を剥ぎ取られ、民は悲鳴を上げながら絶命したという。
その夜は怖くてルイスと一緒に寝たわけだが…どうしてこんな時に限って想像力が豊かになってしまうのだろう。
刑にあった民が、ヴィクトリアに当てはまって仕方がなかった。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます！第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります！ (2018年4月8日 14時) (
レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています！ (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白梅 和平 | 作成日時：2017年7月4日 21時
