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Aが外で走り始めたとほぼ同時刻。
屋敷を出発してしばらくの遠い森の中を、2人の人物が歩いている。
ルイスとディアンである。
相変わらず口角を下げっぱなしですたすたと歩く父親の後を小走りで追いかけるディアンの表情は、それはそれは幸せそうであった。
ルイス様が目の前にいる。
姉さんが近くにいるわけでもなく、お母様が一緒にいるわけでもない。
今ここには自分と彼しかいないのだ。
この事実がディアンを幸福にしてくれた。
このままルイスの後を追い続けていたいと思うディアンであったが、突然、黙っていたルイスが声をかけてきた。
「おい」
どきりと驚きと嬉しさ混じりに返事をする。
「は、はい！如何なさいましたか」
「…ここ最近、Aの様子におかしな点はなかったか」
ああ、また姉さんの話か。
心の奥底で渦巻く妬みが膨張するも、それを知られないよう普段通りの声色で答える。
「ええ、特におかしな点はありませんでした…」
ここでディアンには欲が湧いてしまった。
このままではルイス様との会話が終わってしまう。
せめてあと数秒だけでも時間を伸ばしたい、自分の声を求めてもらいたい。
咄嗟に、先ほどの答えに「が」と付け加えてしまった。
「が？」
「ええと…この前お会いした際に、ある本を教えて下さいました！『プレザンス嬢の夢の旅』という物なのですが、これにとても感化されたようでして…」
あとちょっと、もうちょっと。
「……」
「それでですね、えっと、ああそうそう！物語に登場するヘンリーという青年に、あたかも片思いしていたようでした！」
「ヘンリー？」
ぴたりとルイスの足が止まる。
しめた、と、ディアンは喜々として言葉を続ける。
「はい！美しい顔立ちに金髪と…あと、僕みたいな青い目をしているそうです。僕のこの目を褒めて下さいました」
あなたと同じこの青い目を。
――そう言い足そうとした瞬間、振り向きざまに物凄い勢いでルイスに顔を掴まれた。
片手で両頬を挟まれる形で、自然と口がむにゅりと突き出てしまう。
何か声を発そうにも上手くできず、くぐもった情けない鳴き声のような声しか出ない。
ルイス様、何をなさるのですか。
目で訴えようとルイスを見たが…思わずディアンは悲鳴を上げた。
彼の目の前に…それは心底嬉しそうな、口が裂けそうなくらい笑っている父親がいた。
奴のどす黒く濁った碧眼が、ぎらぎらと快感を覚えるかのように照り輝いている。
しっかりと息子の眼を捕えながら。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます！第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります！ (2018年4月8日 14時) (
レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています！ (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白梅 和平 | 作成日時：2017年7月4日 21時
