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呆気に取られてバランスを崩したのか、それとも外の世界に呼ばれたのか。
Aはその小さな足を1歩踏み出していた。
するりと握っていた母の手をすり抜け、どこに向ければいいのか分からない両手を宙に持っていく。
白く細い指先に風が吹き込んでくる感触が伝わる。
手の甲に生えている産毛(うぶげ)が確かに揺れていた。
空を見上げる。
貰ったクレヨンでは絶対に再現しきれないほど深く蒼い空が、手を伸ばしても届かないところに広がっている。
それはどうしてか海にも見えてきて、そのまま吸い込まれてしまいそうであった。
気がつけば、Aは泣いていた。
声も上げずにただそっと、透明な一筋の涙を綺麗に流していた。
別段悲しいわけでもないのに泣くなんてAは不思議でたまらなかったけれども、ああ、これが感動するという行為なのだと、新しい感情を知ることになる。
後ろから見守っているだけだったヴィクトリアが、静かに後ろから近づいてき、Aの隣にしゃがみこんだ。
初めて外の世界の素晴らしさと尊さを体感した娘の顔を覗き、ふっと微笑む。
「―――これが、外の世界よ。けれどここはほんの一部であって、この先にはもっと広い世界が存在する」
「…もっと広い世界？」
ヴィクトリアは頷く。
「お母様もまだ行ったことのない場所だってあるし、ここよりもっと美しい所もあれば、そのまた逆もあるの」
教育を受けていないAに分かりやすく説明するように努めるが、Aの耳にはもうその言葉は入ってきていなかった。
だって、目の前にこんなに興味深い世界があるのだもの。
その先のことなんてもう知ったことではないわ。
まずはここを…この自然を肌で感じて、そしてすべてを見てみたい！
風船が割れてパンと音が鳴るように、Aは一目散に駆け出した。
絨毯か石の床しか踏んだことのない彼女の足が、小さな石が集まってできた砂利道を行く。
時々伝わる痛みが証明してくれた。
私は外にいる。
「お母様！私、お外に出れたわ！ついにお外に出れたのよおおおっ！」
どことなく狂人じみた大きな奇声を上げてはいるが、Aらしいと言えばAらしい。
あははははと大口を開けながら笑いそこらを走り回り、砂利道から雑草の中へ、雑草の中から柔らかい土の中へと足を進めていった。
靴下が汚れるなんてもうどうでもよい。
すべては彼女の好奇心と喜びとに変換されていって、笑顔を輝かせるばかりであった。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます！第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります！ (2018年4月8日 14時) (
レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています！ (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白梅 和平 | 作成日時：2017年7月4日 21時
