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包んだ手にそっと力を籠め、マルガレーテはアイザックに言った。
「私は、もう…はっきり言います、役に立てません。ここに置いて行って下さい。時は常に移り行くものであり、それは当然であります。こればかりは誰も逆らうことができません。更に目が使えないとあっては、私は邪魔な物でしかなりえません。
どうか、この私の願いを聞いてやって下さい」
力と思いと、そして子供たちへの愛を込める。
「―――どうか、この子たちを頼みます。私は構いません、どうか、この子たちだけは…この子たちだけはっ……」
誰もが息を飲んだ。
最後の方は声が裏返り聞き取ることが困難であったが、もうそれで充分だった。
マルガレーテの思いを知るには、それで充分だった。
やろうと思えば簡単に解ける手を、アイザックは振り払うことができなかった。
できるものか。
そうだ、彼もまた孤児らと同じ境遇で育ってきた。
愛する親が、愛される親がいない。
それはとても寂しいものであり、経験した者にしか理解できない。
彼の答えは1つだ。
「―――分かった。ただし条件がある」
アイザックがぎゅっとマルガレーテの手を握る。
「お前さんも、子供たちと一緒にいろ。そして長生きしてもっとしわくちゃの婆さんになる
こった。それが条件だな!」
そう言って、アイザックは豪快にがはははと笑った。
大声で明るく、まるで本当の母親に向けて笑って見せるように。
「―――と言うことは」
荷台から見ていた、まだ幼い男の子が呟く。
「…おじいちゃんだな、マルガレーテおばあちゃんと、アイザックおじいちゃん!」
してやったりとニヤつけば、みんなが弾ける笑顔と笑い声で応えてくれた。
「ほんとだー!」
「あたしおじいちゃんいないから嬉しい…!」
「やけに太っちょなおじいちゃんだな〜」
するとアイザックが怒った闘牛のように赤くなり、怒鳴り声を上げる。
「おいこらガキっ、人を太っちょ呼ばわりとはこの馬鹿!それに俺はまだおじいちゃんと言うほど年取っとらんわい!」
子供たちどころかマルガレーテとAまでもが吹き出して、声はまたひと際大きくなるばかりだった。
口を隠し上品に笑うマルガレーテを見て、ナンシーもうんと笑う。
大丈夫、私も、僕も、俺も、あたしもいるからね。
孤児らは笑い合いながら、まだ小さな体にそっと決意していた。
血は繋がっていなくとも関係ない、おばあちゃんはおばあちゃんである。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます!第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります! (2018年4月8日 14時) (レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています! (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白梅 和平 | 作成日時:2017年7月4日 21時