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娘のふくれっ面にさすがに罪悪感が湧いたのか、お父様は眉を八の字にする。
「ごめんよ。だけどねA、お外には危ない人や生き物がたくさんいるんだ。お父様はただ、Aを危険な目にあわせたくないだけなんだよ」
そう言って、Aのふわふわした巻き毛を手で優しく梳かす。
お父様がそう嘘を吐くような馬鹿で愚かな人ではないことを、Aはよく知っていた。
先ほどのようなくだらない悪戯は度々してくるが、実は機械技術においてとんでもない腕と知識を持っている。
エイ国の中でもその才能は1番と言われており、エイ国で1番、それすなわち世界で1番と言うこと。
大学を首席で卒業したのはさも当たり前、後に国立の機械研究所で勤めるのも必然であるようだ。
彼の右に出る者は後にも先にも現れることはないと、学者たちが皆口を揃えたほどだ。
これまで彼が造ってきた機械は数知れず、だが、今日もエイ国の頂点に君臨していることは確かである。
そんな彼が今、たかが1人の娘のご機嫌取りに手こずっていると聞けば、世界はどんな反応をするだろう。
「…退屈なの。くまさんのぬいぐるみも、うさぎさんのぬいぐるみも、この薄暗い湿った部屋も。みんなみーんな飽きちゃった」
「うん?じゃあ新しいおもちゃを買ってあげよう。ぬいぐるみじゃなくてもいいぞ。それともっと日当たりのいい部屋へ移動しても…」
「そうじゃなくって!」
かっとなって大声を出せば、Aの目にはまた寂しそうな顔をしているお父様が映る。
そうなると今度はAに罪悪感が湧き、しゅんと小さくなりながら「ごめんなさい」と呟いた。
幼いながらにこの空気がまずいと察したAは、取り繕うように言葉を紡ぐ。
「あのね、じゃあディアンとお喋りしたい。もう学校から帰っているんでしょう?お家の中でお話を、弟といるのはいいでしょう、ね?」
さりげなくお父様の白衣の裾を掴み、上目遣いで許しを請う。
こうすればお父様が喜ぶこともAは知っており、案の定返ってきたのは満面の笑みと弾んだ声色だった。
「うん、それならいいよ。じゃあディアンを呼んでくるから、何をお話するか考えておいてね」
「うん!」
元気よく返事をして、Aはあの言葉を付け加えることも忘れなかった。
「お父様、大好き」
彼の頭の良さは娘にも受け継がれているようで、学びの速さも引けを取らない。
お父様は心の底から幸せそうな顔をして、純粋無垢なおもちゃ箱のような部屋から退出した。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます!第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります! (2018年4月8日 14時) (レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています! (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白梅 和平 | 作成日時:2017年7月4日 21時