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それを一言でいえば、女の子らしい部屋といえば良いか。
壁紙は白を基調としたものに、小さな赤い花を咲かせた唐草が描かれている。
真ん中に敷かれた丸いカーペットも然り、その上にはボタンの目をした動物のぬいぐるみたちが転がっている。
太陽から注がれた光は大きな窓を通り抜け、部屋を淡く照らしてくれた。
その窓から少し離れた所に置かれている、天蓋付きのベッドに、1人の少女が座っている。
小さくこじんまり座っている姿は、着ている桃色のドレスも相まって、野に咲く愛らしい花のようであった。
しかし、少女の顔は苦悩に満ちていた。
唇をきゅっと結び、狭い眉間にはぎゅっとしわが寄せられ、喉から低い唸り声を上げている。
こんな面を、分厚い本にぐっと近づけていた。
「ぐぬぬ」
なんとも似つかわしくない声である。
更に本へ顔を近づけようとすると、閉められていた天蓋がバサッと開かれた。
「ばあ」
「わああああああ!」
途端に少女は本を放り出し、驚きに表情をパーンと弾けさせた。
足を引きずりながら奥へ逃げてすぐさま枕を盾にするが、開けた天蓋の先にいる人物を見るなり、枕を相手に投げつけた。
「もう、お父様!驚かさないでよね!」
口をへの字に曲げてみせ、続いて唇をつんと尖らせた。
投げつけられた枕をぽんぽん叩きながら、お父様と呼ばれた男――黒い髪を後ろに結び、眼鏡をかけた白衣の男――は、少女に怒られ申し訳なさそうに微笑する。
「ははは、ごめんごめん。ちょっとAを驚かしてみたくてね」
Aと呼ばれた少女は「仕方ないな〜」と許してくれたような言葉を述べるが、しかし機嫌は損ねたままである。
それを見てお父様はまた微笑した。
「許しておくれよA」
「むむむ…」
「何がお望みかな。新しい服、絵本、おもちゃ、お人形さん?何があったら許してくれるかな」
「あ!えっとねえ、おそ」
「お外は、絶対にだめだからね」
こうはっきり言われると、Aはいかにも不機嫌そうに頬を膨らませた。
こんな顔になるのも仕方ない。
「だって、お外、出たことないんだもん…」
改めて見れば、Aの肌はやけに白かった。
日に晒されていない肌で、小さな擦り傷の1つも見られない。
まだ誰にも何にも汚されていないような、そんな印象を与えた。
実際の年齢よりずいぶん幼い思考と言動も加わって。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます!第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります! (2018年4月8日 14時) (レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています! (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白梅 和平 | 作成日時:2017年7月4日 21時