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不意にAは青白く震えた顔を、この普段以上に黒く濁った空へ向けた。
境目のない雲から落ちてくる雨が目に髪に、唇に、鼻先にと当たってくる。
やがて瞼にぽつんと落ちた時、Aは虚ろな目を半分閉じて、蚊の鳴くような小さな声で話し出した。
「ねぇ、私は――――」
最後の力を振り絞り、寒さで紫色となった唇を三日月形に結ぶ。
「死んじゃった方が、いいのかなぁ……？」
どしゃり
…と、膝からぬかるんだ地面へ崩れ落ちた。
完全に意識を手放した小さな体にも雨は容赦なく降り注ぎ、元々純白であった服は雨水と泥水を含み汚されていく。
まるでAの心境を表しているようだった。
尾を引いた雨が零れる音が、静かに響いている。
人間は亡くなった直後耳だけは暫く聞こえると言うが、意識のないAにもそれは当てはまるのだろうか。
雨は降る。
しとしと しとしと
ぴちょん ぴちょん
ざぁぁ ざぁぁ
さぁぁ さぁぁ
ぽつぽつ ぽつぽつ
ざっ ざっ ざっ
ざっ
ざっ
「――――――ヴィクトリアッ………！？」
ぐったりと横たわっていたAが、何者かによって勢いよく起こされる。
それでも目を覚まさない彼女の顔を、この何者かはじっと覗き込むようにして見ていた。
着こんでいる黄土色にくすんだレインコートから見えた奴の姿は、まるで遥か昔に枯れ果てた木のように醜いものだった。
何本にもなった皺が顔を切り刻むように連なり、鼻から伸びた苔みたいな髭が口元まで生えている。
先ほど放たれた声もしわがれていて聞いていて不快感を覚えた。
だが不思議と清潔感があり、どういうわけか汚らしさは感じられない。
それはこの…彼の、青玉のように美しく透き通った瞳によってのことであろう。
この枯れ木のような老人はまずAの顔を見ると、すぐに力抜けた彼女を斜め45度に曲がった腰におぶった。
ここでもAは起きることなく、暗い瞼の裏しか見えやしない。
老人は背中にいる少女にどこか戸惑った目を向けるが、前を向くなりぎっと目つきを変えた。
そしてゆっくりと……街から離れていく霧の中へ歩んでいき、すっと消えていった。
新たな藍の眼の者がまた1人。
これがAにとって救いとなるか、それとも。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます！第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります！ (2018年4月8日 14時) (
レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています！ (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白梅 和平 | 作成日時：2017年7月4日 21時
