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こうなった時、ヘンリーの行動はとてつもなく速いものであった。
ほぼ押し倒す形でAをベッドに横にさせると、部屋に備えてある清潔なタオルで顔と首をぐしぐしと拭く。
次にベッドの下に置いていたトランクを引っ張り出し、中身を見るなりすぐに風邪薬の入った紙袋を発見した。
これを引っ掴み次いで服を1枚取り出す。
しっかりと閉めたトランクを元の位置に戻すと、取り出した服をAに押しやった。
着替えろと言うことだろう。

「あのね、あのねヘンリー。私大丈夫だから、そんな心配しなくても…」

Aがこう述べたものの、ヘンリーは機嫌を損ねたかのように目を細めた。
表情の乏しい彼だが考えることはある。
怯えによるせいかAはびくりと肩を揺らし、渋々服を受け取った。
一緒にいて彼の迅速な対応は数えきれないほど目の当たりにしたが、毎度毎度驚かされるばかりだった。

服が受け取られたことを確認し、ヘンリーは颯爽と部屋のドアへ向かった。
どこに行くのかと尋ねればお馴染みのメモ帳を取り出し答えた。

【フロントに水を貰いに行ってくる】

オウ地方では水道水の質が良くないことが多々ある。
錆びついたような鉄臭い味のするもの、赤い汚れと思わしきものが浮上していることもある。
そのため、しっかりと浄水された水が別々に売られていたりした。
ヘンリーが言うように、宿等ではフロントに行ってもらうことが可能である。
しかし、エイ国の蛇口から出る水は綺麗な方だ。
生活用水として国民は使っているし、そのまま飲むにも何ら問題ない。

そう言おうとしたがAはぐっと声を押し殺した。
顔には笑みを浮かべ、代わりに「ありがとう、お願いね」と、自らがそれを望むように装う。
ヘンリーは黙って頷くと、足早に部屋を出て行った。


階段を下りて行く音が徐々に遠ざかっていく。
やがて完全に聞こえなくなると、Aはふうーっと深い息を吐いた。
細かい模様の彫られた天井を見上げ、痛む頭をそっと押さえながら考えを巡らせる。


ヘンリーは私の願いを聞いてくれる、だがそれ以上に優先することがあった。
私を守る。
それが第一優先であり、彼自身、彼の機械の体としての任務である。
私を救うためなら何でもこなす、それこそ全人類を殺してまでも救うと言うだろう。

だが…それでいいのだろうか。
彼は心の底からそう思っているのだろうか。
無理矢理組み込まれた任務に、無理矢理従っているのではないか。

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作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます!第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります! (2018年4月8日 14時) (レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています! (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白梅 和平 | 作成日時:2017年7月4日 21時

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