1034. ページ35
だが、俺の考えは違った。
寧ろ、真逆と言ってもいい。
「いいや、安心していいさ。Aは安全だよ、絶対にな」
「っ、どうして…？」
「他ならぬあの男が、Aの協力者だったからだ。今の話でようやく、確信できた」
思えば、スコッチの死亡偽装が行われた時にも、明美を助けた時にも、ジンは現場周辺にいた。
だからこそ俺たちは綱渡りのようなAの作戦に恐々としていたわけだが、真実はまるで反対だったわけだ。
ボスや幹部からの絶対的な信頼と、鮮やかなまでの統制手腕と、確かな戦闘能力と、時にFBIをも欺く優秀な頭脳。その全てを兼ね備えた男が、持ち得る能力を一欠片の惜しみもなくAのためだけに捧げる。ジンが味方に付いていたのなら、Aはとても動きやすかっただろう。
彼らの関係がいつからのものだったのかは、分からない。だが、少なくともスコッチが離脱した時にはもう、奴はAと共に組織を裏切っていたのだろう。
あの時、隠れていた俺を見つけて追い返した人物は、ジンだったのだろう。あれほど高い気配察知能力とスナイプ能力を持つ人間は、世界広しと言えど、そうお目にかかれるものではないのだから。
これまで幾度となく抱いては打ち消し、或いは保留にせざるを得なかった可能性が、ついに殆ど現実のものとなった。あとは、明美に書いてもらった手紙を渡す時にでもAを問い詰めれば、きっと答え合わせができるのではないか。
あの男がこちら側に立っていたらしいと知って嬉しいような、だがついに宿敵と見なすことが許されなくなってしまいそうで悔しいような、気分は複雑だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 127人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：櫂渦【とーか】
| 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/users/28997649
作成日時：2023年5月28日 23時
