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「でもね、Aもお兄ちゃんだったのよ。命を懸けられるほど大事な弟がいて、志保とその弟さんの姿が重なったみたい。だから、兄として、志保のことを丸ごと受け止めてくれた。それがね、有難かったんだけど、それ以上にすごく、悔しかった」
「そうか」
気の利いた返事など、できなかった。何か言おうと考えて幾度か口を開いたが、適切な表現が見つけられない。
こういうとき、あの男ならきっと気持ちを言葉に乗せるのも上手いのだろうな…と、金髪のハニーフェイスが脳裏を過ぎった。
俺も、同じ長子という立場にあるから、明美の気持ちは痛いくらいに理解できる。妹のことを守れずAに救われてしまったという経験すら、同じようにしているのだから、明美の言う “悔しさ” も自分事のように感じられた。
俺の場合は手を伸ばすどころか危機を察知してやることすらできず、知った時には全てが終わっていたのだから尚悪いが。
「でね、それから色々考えて、決めたの。せめてこれからのあの子の心は、私が支えるんだ、って」
「…強いな、明美は」
「ううん、そんなんじゃないわよ。決心できたのだって、Aを支えるジンを見ていたからっていうのもあるし」
「薬を飲むAを止めもしなかった、という件か」
「そう。手出しをせずに支えてあげるやり方もあるんだなぁって、まさかあんな怖い人に教えられるとは思ってもいなかったけど。でも、Aのことを教えてくれた時のジン、大事な家族を見つめるときみたいな目をしてたのよ」
そうか、奴がそんな目を…と不思議な気持ちで頷きかけたところで、ふと何かが引っかかった。
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作者名：櫂渦【とーか】
| 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/users/28997649
作成日時：2023年5月28日 23時
