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始めは錠剤、それから粉、煙、注射、なんでもやった。仕事もいつしか運び屋や売人のような内容へと変わっていき、アングラな世界へと足を踏み込んでしまっていた。
それでも殺しだけは絶対にやらなかったし、妹に生活費を渡すことも、一度として忘れることは無かった。
これは後になってあの女に言われたことだが、俺は、妹を守ろうと必死になっていたに違いないらしい。でなければ、わざわざ妹の分まで稼いだり、妹を学校に通わせ続けてやったりはできないのだ、と。
俺は、俺なりのやり方で、何とか家族を守ろうとしていた、らしい。
思えば、確かに人殺しにだけは手を出さなかったのには、妹の影響があった気がする。いつだったか、残酷な殺人事件が世間をにぎわせていた頃に、妹が怖がって泣いたのだ。
『お兄ちゃん、お兄ちゃんはあんなことやってないよね』と。
俺の素行不良はそれなりに有名になってしまっていたから、お前の兄貴が犯人だろうとか、学校でそんなことを言われでもしたのだろう。
俺は誓ってそれをやっていなかったし、関わってもいなかった。それらしき人間が集まる場所に顔こそ出してしまってはいたが。
妹のことはもう顔も声もほとんど覚えていないが、その晩珍しく飲みには出ていかなかった俺に、妹が泣きじゃぐりながら口にした言葉だけは、今でもはっきりと思い出せる。
『もし誰かを殺すなら、あたしを一番最初にしてね。人殺しになったお兄ちゃんなんて、見たくないから。絶対、約束だよ』
その言葉は、俺を縛った。
結局、俺はあの女の言う通りに家族が守りたかったのだろう。ひとりぼっちでは生きていけない弱い人間だから、何かに依存しなければ折れてしまうような弱い心を持っていたから、妹を殺して独りになるくらいなら、誰に殴られようが、半殺しの目に遭おうが、誰かを殺せという仕事だけは、絶対に請けなかった。
だが、それが上の奴らを怒らせたらしい。
適当なクスリさえ与えておけば狂ったように何でもこなしていた俺が、人殺しだけは強固に拒むものだから、もしや警察にでもチクるつもりかと疑われた。
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作者名：櫂渦【とーか】
| 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/users/28997649
作成日時：2023年5月28日 23時
