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軽い現実逃避をしている間にも音声の再生は続く。気づけば声は再び、妹から母へと戻されていた。
『───私たちが受けた恩を、お前が代わりに返すべきだとは思っていない。ただ、願わくば我が友人と一度冷静に話し合う機会だけでも持ってほしい。以上だ』
その言葉を最後に、音声はプツリと切れて終了した。Aも俺もすぐには口を開かず、しばらくの間、生ぬるい沈黙が車内を満たす。
結局、先に言葉を切り出したのはAの方だった。
「良い友人、だろ?」
羨ましいだろうと言わんばかりの言い草に、つい反射で言い返す。
「俺の家族だ」
「ん、ふふ。そうだな、赤井の家族だ」
思わずと言った様子で笑みを零したAが、幼子でもあやすような柔らかい口調で、俺の言葉を肯定する。嬉しそうにすら感じられるその様子に、少しばかりバツが悪くなって窓の外に目をやった。
「…仮にカルバドスの身柄を手に入れたとして、組織にも返さずどうやって面倒を見るつもりだ」
「協力者にできないか、交渉してみるつもりだ。無理なら、申し訳ないけど閉じ込めさせてもらう」
「逃げ出したらどうする。協力者になった振りをして、裏切られる可能性もあるだろう」
「以前、ベルモットからちょっとした話を聞いたことがあって。確証は無いけど、俺の解釈が間違っていなければ、カルバドスはきっと協力者になってくれると思う」
その話とやらの内容について、詳細を話すつもりがないことはAの表情からしても明らかだ。

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作者名:櫂渦【とーか】 | 作者ホームページ:https://www.pixiv.net/users/28997649
作成日時:2023年5月28日 23時