・ ページ32
#
「…っ、A、」
しかし、振りかざしたシャーペンは扉を開けて入ってきたAによって止められてしまった。
その後にすぐトミーも入ってきて、俺を怒ろうとしたのだろうか、何かを言おうと口を開く。が、部屋をぐるりと見渡したトミーのその口は何も発することなく閉じられてしまった。
そりゃそうだろう。
俺の部屋は今、閉鎖病棟かのように薄暗く荒れ果てていた。
床1面には散乱したメモやノートなどの夢日記、また壁に貼っている大量のポストイットもそれのひとつだ。カーテンは締め切られ、ベッドは皺だらけのシーツもそのままに、布団が半分ずりおちていた。
「…一体、何があったの。」
静かなトミーの声とAの泣く声だけが響く。
辞められなかったんだ、とほとんど聞こえないほどの声で呟くと、トミーの瞳が僅かに揺らいだ。そのままトミーはしゃがんで散らばったメモの1つを拾い上げる。
「やめられなかった、って何？…夢日記のこと？」
「…そう。」
「なんで？」
「…夢日記を付けたら、明晰夢が見れるようになった。」
Aがすぐに小さく叫んだ。
「でもっ、何もこんなになるまでっ…やらなくてよかったじゃん！カンタには…自分の思い通りにしたいほどの夢があったの？」
「あったよ。なんなら今も、ある。」
即答した俺に、2人とも驚いたように目を見開いた。構うことなくそのまま続ける。
「怖いんだ。いつか2人が、結婚して、家庭を持つようになって。水溜りボンドが…俺の存在が、消えてっちゃうんじゃないかって。このまま、忘れ去られていくんじゃないかって。夢の中なら、ずっと水溜りボンドでいられる。ずっと二人とも俺の傍にいてくれる…。」
呻くように喋る俺を見て、2人は顔を見合わせた。
その直後、2人の手が、それぞれ俺の両肩にぽん、と乗せられた。
「あのさあ、カンタ。」
「何を勘違いしてるか知らないけど、俺らは恋人である以前に水溜りボンドだから。」
続けてAも口を開いた。
「うん。カンタがいないと、ダメだよ。…絶対。カンタがいない水溜りボンドなんか絶対許さないからね。」
途端に涙が出てきた。年甲斐にもなくグズグズと泣いてる俺を見て、トミーはいひひ、といつもの調子で笑った。俺もへへ、と笑った。Aも笑った。
「もー、なにこれ。私、暖かいココア入れてくるね。」
そう言ってAは部屋を出ていく。
残された俺とトミー。先に沈黙を破ったのは俺の方だった。
#
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 256人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
杉猫(プロフ) - リク話ありがとうございます！もこ坂可愛い｡ﾟ(ﾟ´▽`ﾟ)ﾟ｡消しゴムの顔が思い浮かぶくらい可愛いお話ありがとうございました！ (2019年6月12日 18時) (
レス) id: 04ecf5769a (このIDを非表示/違反報告)
ハクビ(プロフ) - Mai Yさん» リクエストありがとうございます！がんばります！ (2019年6月8日 19時) (レス) id: 17afb1acf0 (このIDを非表示/違反報告)
Mai Y(プロフ) - トミーのヤキモチをリクエストしたいです！ (2019年6月7日 21時) (レス) id: bc7e167811 (このIDを非表示/違反報告)
ハクビ(プロフ) - 桃さん» リクエストありがとうございます！エイジくん初挑戦、がんばってみます！ (2019年6月5日 20時) (レス) id: 17afb1acf0 (このIDを非表示/違反報告)
かのい(プロフ) - リクエストお答えありがとうございます！めちゃくちゃ良くてキュンキュンしました！これからも更新頑張ってください！ (2019年6月5日 17時) (レス) id: 1702f55027 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ハクビ | 作成日時：2019年5月21日 19時
