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一杯の茶漬け。
梅干しに刻み海苔、鶏肉と塩昆布の入った熱々の茶漬け。
餓死しかけの少年、中島敦の脳内にはそれが浮かんでいる。
つい先日追い出された孤児院で人目を盗んで食べた茶漬けだ。
だが、そんな思い出も自身の腹の音と共に消え失せる。
───生きたければ盗むか奪うしかない⋯⋯けど⋯⋯。
元々敦は臆病な少年だ。悪事に手を染める事にはかなりの勇気が必要である。
そう思いながら敦は先日言われた言葉を思い出した。
「お前など孤児院にも要らぬ!どこぞで野垂れ死んでしまえ!」
なぜ自分だけ。
そう思ったことはある。
だが、これまでの仕打ちも合わせると、孤児院の院長は敦のことが嫌いだとしか思えなかった。
───五月蝿い⋯⋯僕は死なないぞ⋯⋯。
───生きる為だ。次に通りかかった者、そいつを遅い、財布を奪う。
そう決心した直後、敦の目に一人の青年が映った。
敦と同年代の青年だ。
力なく川辺に腰掛け、赤く染まった空を見上げている。
敦は彼から財布を奪おうと決めた。
「お、おいっ!」
『⋯⋯何?』
青年が敦の方を向く。
整った中性的な顔立ちだ。
化粧すれば女装もできるだろう。
「財布を出せ!」
『財布?お金がほしいの?』
「そ、そうだ!だから⋯⋯」
『奇遇だね』
二人の間に腹の音が響く。
敦の腹の音ではない。
『僕もだよ』
「⋯⋯は?」
『うん、僕もお金がほしいんだよ。なんか気づいたら無一文でここにいてね。餓死しそうなんだよ』
その後も青年はぐだぐだと何かを言っていたが、敦の耳にそれは届いていない。
───これは計算外だった⋯⋯。
そう思いながら敦は空腹のあまり倒れた。
『大丈夫?』
青年がそう言いながら手を伸ばす。
だが、その手を敦がつかもうとした瞬間、青年はその手を引っ込めた。
「?」
『あ、いやごめん。なんか、あんま手掴まれたくなかったから⋯⋯』
青年は端正な顔を少し歪ませる。
と、ここで、敦は青年の「異常さ」に気づいた。
「え、君」
頭上の輪。
背中の羽根。
それらはまるで──。
『⋯⋯ねぇ。何、あれ』
敦が何かを言おうとする前に、青年が言葉を発した。
青年の目線の先には川があり、そして、
足が生えていた。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」
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暁月臨(プロフ) - 凄く面白いです!更新待ってます!! (6月24日 16時) (レス) @page16 id: 59dc159e7e (このIDを非表示/違反報告)
雪ん子(プロフ) - 凄い好きです❗️続き待ってます! (2023年4月26日 17時) (レス) @page16 id: fa924563b5 (このIDを非表示/違反報告)
クラスペディア(プロフ) - 面白かったです!更新待ってます✧*。 (2022年12月22日 13時) (レス) id: d83e92e5af (このIDを非表示/違反報告)
かな(プロフ) - 面白いです✨ (2022年12月20日 5時) (レス) @page14 id: a32747b1ee (このIDを非表示/違反報告)
響輝@お気に入り400人突破ベリサンキュ(プロフ) - 面白かったです。続き楽しみにしてます (2022年11月24日 0時) (レス) id: d6b5ec7764 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:棘屋 | 作成日時:2022年11月21日 7時