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日曜日、先輩から送られてきた住所にあるホールに足を運んだ。
「うわ、人多いな」
会場は思ってたより人が多くて混雑していた。
人の波をすり抜けた先の入り口でパンフレットをもらって適当な席に座る。どうやら今日はピアノ教室の発表会のようで、パンフレットには演奏順に曲と演奏者の名前が書かれていた。先輩は最後にゲストという形で演奏するらしい。
パンフレットに載った先輩の名前を眺めていると、時間になったのか演奏者の名前と演奏する曲目を読み上げるアナウンスが響いた。
アナウンスが終わると、ざわざわしていた会場は一斉に静かになる。その静まり返った会場にピアノの音だけが響く。初めて先輩以外が演奏するピアノをちゃんと聴いた。前に先輩が言っていた、人によって演奏が違って聴こえるんだってことを理解できた気がした。今演奏されている曲は先輩も音楽室で演奏していた。でも、先輩の演奏と今ステージ上にいる子の演奏は別物だった。別に、他の演奏者が下手だとかそういうことじゃなくて。やっぱり、先輩の演奏が一番心に響いて、好きなんだと実感した。
*****
途中途中休憩時間をはさみながら、演奏会は滞りなく進行していく。
気が付けば先輩の前の人の演奏が終わっていて、最後の休憩時間。
先輩はどんな曲を演奏するんだろう。パンフレットに記載されている曲名は聞いたことがなくて、どんな曲なのかわからなかった。でも、どんな曲でも先輩は完璧に演奏してしまうんだろうな。
休憩時間の終わりを告げるアナウンスが流れると、休憩のためにロビーの方に行っていた人たちが戻ってくる。ある程度、席が埋まったところで演奏者、つまり先輩の名前が読み上げられる。
名前を読み上げられた先輩がステージ上に出てくる。先輩は真っ白なワンピースを着ていて、制服姿以外を初めて見たからかいつもより綺麗に見えた。
名前の後に続けて演奏曲が読み上げられる。だけど曲名は、パンフレットに記載されているものとは違っていた。
『演奏者の希望により、演奏曲を変更いたします。演奏曲は、ピアノソナタ第14番「月光」』
聞き覚えのある曲名だった。
先輩がピアノの前に座って、鍵盤に触れる。そこから奏でられた音に誰もが言葉を奪われた。会場中が先輩の演奏に魅せられていた。
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ほさと - とても感動しました。占ツクの歌い手様を扱った作品には珍しくしっかりと小説になっていて、一介の読書好きとしても嬉しかったです。どの作品もとても美しい比喩があり、音読したい作品だなぁと思いました。 (2019年7月14日 20時) (レス) id: fdc2472f82 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - 皆様の素晴らしい文章に心が震えました。ありがとうございます。執筆お疲れ様でした。これからも頑張って下さい。 (2019年6月17日 16時) (レス) id: d99258de7b (このIDを非表示/違反報告)
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