＊私の瞳に映る１０㎝の世界＊ーオリジナルー (ページ1)

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第１章ページ1

「心愛ー。もう、７時２０分よ！起きないの？」

「うるさいなー！」

( ありがとう )

その一言を、今日もまた、私は心の中に仕舞い込む。お父さんが居なくなってからも、変わらず育ててくれたお母さんに、沢山言いたいことがあるのに。なんで私は、言えないんだろう。
( 私の馬鹿 )

そんなことを考えながら、のろのろと制服に着替える。
新しい、生地の匂いがふんわりとした。

「あー心愛も、もう中学生になるんだねぇ」

お弁当を詰めながら、お母さんが思い出したように呟く。そうなのだ。今日から、私は近所の公立中学校に通うことになる。

( あんまり、実感湧かない )
起床の時間も一緒、嫌いな食べ物と好きな食べ物が入ったおかずも一緒。そんな毎日が、私は大好き。＿＿変わらないでね。

＊

入学式は、やっぱりどきどきしてしまう。新しい制服、知らない友達。私は、知らない友達という言葉が好きだ。やっぱり、世界は繋がっているんだな、そう思えるから。…それから、満開の桜。お母さんが来ないから、少し怖い。でも、私はそんなこと言えないの。
考えながら見上げた空は、青色に染まっていた。

「おーい！心愛！！」

思わぬ声に驚いて振り返ると、私の親友のリンが立っていた。艶のある栗色の髪の毛は、きちんと三つ編みになっている。小学校と違うのは、その髪型がお下げから、一つ結びに変わっているということ。

「リン、どうしたの？ここ…公立じゃん」

リンは、頭が良い。成績は常にトップで、難関校に行くと張り切っていたのだ。だから、私も応援したのに……
リンの顔が暗くなっていく。あ、マズイこと聞いちゃった…？いきなり、不安になった。

( そうだよ…失礼だったよね？ )

それでもリンは、直ぐに柔らかくはにかんだ。

「だって、心愛と居たかったんだもん…！」

だから私は、リンの暗い顔なんて忘れていたのだ。