不随意運動・ko ページ4
「おはよ、こうちゃん」
「おはようって言うか微妙な時間じゃん」
「それは言わない約束!」
短針が11を過ぎた頃に俺の隣に座った女性。立派な遅刻に悪びれる様子は無い。近くのコンビニで買ったのだろう、紅茶のペットボトルを片手に呑気に片手をあげたその姿。
いつも同じ銘柄なのに、今日だけそのパッケージがピンク色なのが気になった。いつもは…茶色?だっけ。そこまでちゃんと見てないから分からないけど。
「新作?」
「よく気づいたね!期間限定のピーチ味なんだけど、たまたま売れ残ってたんだあ」
「へぇー、美味しいかなあ」
「美味しいと思うよ」
「根拠は?」
「コラボ相手のメーカーさんが結構有名な紅茶専門店なの。夏季だけ発売なのが勿体ないくらいの美味しさだって話題になってた」
「へー」
「え…え?」
気がついたら俺は、彼女が机に置いたペットボトルを握りしめていた。ご丁寧にキャップまで空けてあり、中身は容器の肩ほどまで無くなっている。
顔の血がサァッと地面に下がる気がした。役満である。終身刑レベルである。なぜなら目の前の彼女は驚いてずっとその丸い目をパチクリと星のように瞬かせているから。
やべ、という声が聞こえた。俺の声だった。
笑い声も聞こえた。抑えたような、控えめな、でも聞こえてくる声。俺でも、Aでもない声だった。
味が気になった。ただそれだけである。全くもって疚しい気持ちは無い。いくら俺が弁護を重ねても顔を真っ赤にした友人の前では東大法学部卒という肩書きはなんの意味も成さなかった。
頬を椛色に染めた俺と褪紅色に染めたAを見て、誰かが小さく口笛を吹いた。
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作者名:狭 | 作成日時:2021年9月10日 0時