story19 ページ28
鍵を開けて外を見れば、そこには兄さんとそらるさん。
さっきの連続ピンポンをしたのはどちらだろうか。……たぶん、兄さんだな。
「これ、落とし物」
「……いらないし、そんなの」
兄さんが真っ直ぐ手を差し伸べる。
その手のひらの上にはピカピカの白い石。昔、Aにもらった、私にとっては唯一無二のAの存在を立証するもの。
「嘘つき。それだったら十数年も大切に取っておく訳がない。こんなに綺麗なままな訳がない」
「……だから、なんだよ。それは私が持つべきものじゃない」
Aのものだ。Aの偽物である私が持っていい理由なんてない。
「……やっぱり」
そらるさんが小さく呟く。
なにが“やっぱり”だって言うんだよ。なんにも知らないくせに。
「やっぱりさ、“にぃちゃん”は相当Aさんに固執しているよね。さっきいった、“私はAじゃない”って言葉。それに、その石を受け取らないのも“Aさんが持つべきもの”と思っているからでしょ?」
きちんと筋の通った主張に言葉が詰まる。
そう、なのかもしれない。わからないけれど、そうなのかもしれない。
自分でも答えが出せない感情に辟易する。
「……当たり前じゃん。私なんかが、Aの代わりとして、相川Aになる方がおかしかったんだよ」
同じ顔をしていても、私とAは根本的に違う。
本当のAは、私が殺してしまった。
けれど、Aが死んだという事実は隠蔽され、私が今、Aがいるべき場所にいる。
__それがどうしても、許せない。
「ねえ、思ったんだけどさ」
兄さんが口を開く。
もう目をそらさないんだね、Aと同じ顔を持つ、私から。
「“にぃちゃん”が一番心苦しく思っているのはなに? Aの死? それとも、Aの居場所にいる自分?」
“にぃちゃん”。
かつてはAしか呼ばない私の呼称。
兄さんが私のことをそう呼んだのは、初めてだった。
「……私、私が望んでいるのは―――…」
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千々(プロフ) - くまくまちゃんさん» 最初のころの作品で語彙力ドバドバ崩壊なのにそういっていただけるなんて嬉しいです……! コメントありがとうございました! (2020年11月1日 14時) (レス) id: 4401622583 (このIDを非表示/違反報告)
くまくまちゃん(プロフ) - すごいふかいなぁ。神かな?←面白かったです! (2020年9月19日 9時) (レス) id: 8a3f9ddf1c (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - ひきねこさん» こちらにもコメントありがとうございますっっ! たくさんのコメントは本当にモチベに繋がるので嬉しいです……! 神作と思っていただけるのはRONONさんのネタが素晴らしいからですね、上手くネタを生かせたか心配ですけど、そう言っていただけて良かったです! (2020年8月18日 22時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
ひきねこ - こんにちは 新しい方のから読みに来ましたよ なんですか!?作者様は神作しか書けないんですか!?コホン…凄く良かったです 他のも読みにいきます (2020年8月18日 19時) (レス) id: b9ac26b4ea (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - #よにん。@変人系カップル&シトラ教教組さん» これからも読者さんの期待に応えられるように、誠心誠意頑張らせていただきます……! ありがとうございました! (2020年8月5日 15時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年5月10日 14時