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Aは毎日のように、あの女の子のところへ遊びに行き、僕はそれを送り出す。
いつもと変わらぬそんな光景に歪みが生じたのは、Aが中学二年生、僕が高校三年生のときだった。
「A……? それ、どうしたの?」
「ああ、なんでもないよ」
いつものように、あの女の子のところから帰ってきたAは怪我をしていた。
手首の部分が少し腫れていて赤くなっている。
「どうしてこんな怪我をしたの!? これ……転んだとかじゃ、ないでしょ?」
その傷は転んでできた、というにはあまりにも不自然で。
平然としているAを、おかしいと感じてしまうほどだった。
「だって、こんなのいつものことだもん」
「いつものこと?」
「あそこのおじさん、いつも殴ってこようとするの。『廃棄物二十一号が生意気なのはお前のせいだ』って」
廃棄物二十一号。
僕らがこの町に住むにつれて知った、“ゴミ捨て場”の異様さのうちの一つだ。
人間扱いされていない“ゴミ捨て場”の孤児たちは“廃棄物○○号”と呼ばれる。
あの女の子の廃棄物番号は、“二十一号”。
そしてAがいう“おじさん”とは“ゴミ捨て場”の管理人。
孤児を道具として扱っている、張本人だ。
「最初の方は避けてたんだけどね。でも、今回は避けきれなかったや」
えへへ、と笑って見せるAに、なぜか腹が立った。
「なんで……なんで言ってくれなかったの!?」
「だって言っても仕方がないじゃん。あのおじさんは話し合いなんて聞く耳持たないよ」
「だからといって、暴力まで甘んじて受けることないじゃん!」
「仕方ないよ! だって、にぃちゃんはあの男のところで暮らしているんだよ!?」
僕が、Aにここまで本気で怒ったのは初めてかもしれない。
僕自身、来年になったら大学生。ここを離れて一人暮らしをすることになっていた。
だからこそ、Aのことに対して過保護になりすぎた。
「もう、あそこへは行かないで。Aが危険な目に遭うだけじゃん…!」
「やだ! だってあそこに行かないと、にぃちゃんには会えないんだよ? 私がいなくなったら、にぃちゃんが一人になっちゃうよ!」
お互いに引き下がらず、口喧嘩は僕らの間に大きな亀裂を入れた。
「もうAなんて知らない! 勝手にすればいいんだ!」
そのまま玄関から飛び出す。
前を見ずに飛び出した先は、トラックの前。
「お兄ちゃん!」
「え」
轟音。
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千々(プロフ) - くまくまちゃんさん» 最初のころの作品で語彙力ドバドバ崩壊なのにそういっていただけるなんて嬉しいです……! コメントありがとうございました! (2020年11月1日 14時) (レス) id: 4401622583 (このIDを非表示/違反報告)
くまくまちゃん(プロフ) - すごいふかいなぁ。神かな?←面白かったです! (2020年9月19日 9時) (レス) id: 8a3f9ddf1c (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - ひきねこさん» こちらにもコメントありがとうございますっっ! たくさんのコメントは本当にモチベに繋がるので嬉しいです……! 神作と思っていただけるのはRONONさんのネタが素晴らしいからですね、上手くネタを生かせたか心配ですけど、そう言っていただけて良かったです! (2020年8月18日 22時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
ひきねこ - こんにちは 新しい方のから読みに来ましたよ なんですか!?作者様は神作しか書けないんですか!?コホン…凄く良かったです 他のも読みにいきます (2020年8月18日 19時) (レス) id: b9ac26b4ea (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - #よにん。@変人系カップル&シトラ教教組さん» これからも読者さんの期待に応えられるように、誠心誠意頑張らせていただきます……! ありがとうございました! (2020年8月5日 15時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年5月10日 14時