秘密。２

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それからのAは、
ますます衰弱していった。


真夜中には、

ごめんなさい、

ごめんなさい、


そんな、うわごとを繰り返して。


どんどん、見知らぬ女になっていく。



俺の３２回目の誕生日。


家でお祝いする事になってた。



『残業で少し遅くなります』



そんなラインがAから入って。


俺は部屋で一人、待ってる。


棚の上には、


新婚旅行で行った南の島で撮影した、
俺に寄り添う、
水着のAの弾けるような笑顔。


「ほんまに可愛い笑顔や」


その写真の唇を指でなぞった時、
ハイヒールの音がコツコツ聞こえて来た。


玄関のドアが開く。


そこに立ってたのは、


ケーキの箱を抱えた、幸せそうな・・・


A？



いや、違う。



・・・由貴や。


由貴は、昔のAに取って代わったかのように、
Aそのものに近付いてて、

その違いを見分けるのも、かろうじて。


「ただいま」


由貴はまるで、
自分の家に帰ったかのように、そう言って、

当たり前のように、
ハイヒールを脱いだ。


「いらっしゃい、由貴ちゃん」


なんとか、そう絞り出したけど・・・


頭がくらくらしてくる。


これは誰？どっちの女？



「章大？私だよ？Aだよ？」


「タチの悪い冗談やめてえや。
ただでさえ、そっくりな顔に変えてんから」


笑ってそう言い返した俺の手を、
由貴が握りしめる。



「章大、ケーキ、食べない？」



「後からでええわ。
Aが、帰ってから」



「だから私ならここに」



「違う。
Aはまだ帰ってない」


掴まれた手を振りほどいた時、

もう一度、鍵を差し込む音がして、
扉が開いた。

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