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時透 「君って、紅葉が好きだったよね。」
A「そうだけど。覚えててくれたんだね。」
呉服屋につくと、時透君はそう口にした。
本当によく私のことを覚えててくれるよね。
たびたび、『なんだっけあれ。』とか言うのが嘘みたい。
カナヲちゃんみたいに、世の中のことどうでもいいとか思ってるのかな。
時透 「僕も秋は好きだよ。」
A「へぇ。意外だね。春が好きなのかと思ってた。」
暖かい季節が好きそうな顔してるし。
時透 「涼しいし、あとなんだか懐かしい気がする。」
A「そうなんだ。…私は冬が一番かな。」
時透 「虫がいなくなるからでしょ。」
A「そうそう。でも、好きな植物だったら紅葉だね。」
時透 「じゃあこれなんかどう?」
時透君が指さしたのは、
浅葱色の生地に真っ赤な紅葉が流れているような柄の着物。
あ、これ好きかも。
時透 「…これってさ、確か、Aが好きな短歌でなかった?」
A「あぁ、
ちはやぶる 神代もきかず 竜田川
からくれなゐに 水くくるとは」
時透 「そうそれ。」
そんなことまで覚えてるのね。
まぁ流石に短歌までは覚えてなかったけど。
時透 「似合うと思うけど。」
A「私もこれ、気に入った。」
買おうかな。
よし、お会計行ってこよう。
時透 「待って。」
時透君に腕を掴まれる。
時透 「着物かして。」
A「え?はい。」
すると時透君は、すたすたとお会計に向かうではないか。
ちょっ!
時透 「すみませんこれください。」
A「待って時透君!駄目駄目駄目!私が払うから!」
すんなりと財布を構える時透君を、私は必死で止めた。
時透 「僕が払うよ。連れてきたのも僕だし。着物買おうって言ったのも僕だから。」
A「いや、悪いよそんなの!着物って高いんだよ!?
それに時透君のお金なんだから時透君の為に使ってよ!」
時透 「着物買うくらいのお金持ってるに決まってるでしょ。
僕柱なんだよ?」
A「…でも…時透君が命かけてまで戦ってためたお金だもの。
こんな簡単に使っちゃいけないよ。」
時透 「…本当にお人好し。」
時透君はため息をつきながら言う。
時透 「僕が買いたいの。僕が頑張ってためたお金だから、Aの為に使いたいの。
なにも君が変に気を使うことない。
僕、いつ死ぬかわからないから…君にはできることをしてあげたい。」
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