転生先が乙女ゲームみたいなんだが 2【鬼滅の刃】

第漆拾漆話 ページ29

天星さんは目を見開く。
やがて…両手で顔を覆いながら俯いた。




「ひっ…酷いです…野一色さん……
私は…ただ……」




演技かどうかはわからないが、すすり泣く声が聞こえてくる。

まるで乙女ゲームのワンシーン。
悪役がヒロインを虐め、そこに攻略対象が現れる。
定番中の定番、典型的なパターン。

やっぱり、私は天星さんと仲良くできない。
願わくば、直接関わるのはこの任務で最後にしたい。




「……どうした、これ」




炭治郎たちへの定期報告を終えたようで、宇髄さんがこの場に現れる。
あぁ、また話がややこしくなるじゃないか。
攻略対象(と思われる人)現れちゃったし。




「宇髄さん…っ……」
「っ……」




ふい、と私は目を逸らす。
今までで一番面倒くさい状況、初めて天星さんの罠に嵌められたような気もする。

どこどう見ても悪役とヒロイン。
乙女ゲームの悪役に転生した、そんな感じの漫画を前世で読んだことがある気がする。

……転生なんてするもんじゃない。
なんなら前世の日々に戻りたい。
あの平凡な毎日がかけがえのないものだったと知る。




「野一色」




ぽんぽんと天星さんの頭を撫でた宇髄さんがこちらに近づいてくる。
私は悪いことをしたつもりはない、それでも目を合わせる勇気は私にはなかった。


もう、最悪だ。


泣きたいのは私の方だ。
転生したかと思えば意味のわからないシナリオに付き合わされて、勝手に悪役に配役されて。
ただ平穏な生活を送りたいだけなのに、それさえ許されないなんて……もはや悲劇だ。




「野一色」




宇髄さんがもう一度私の名前を呼ぶ。
すると、俯いた私の視界に宇髄さんが映った。
屈んで目を合わせようとしたのだ。




「大丈夫だ」




あぁ、もう、何なんだ。
その一言で、全てを見透かされているような気がした。

浮かんできた涙を堪えるのに、私は必死だった。

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