序章 ページ1
薄暗く、息苦しい、私の生まれ育った街はそんな場所だ。付け加えるなら、狭くて、汚い。
人や動物の死体が転がってるなんて、最早見慣れた光景である。
すでにこと切れ、うんともすんとも言わぬそれらは、酷い異臭を放つが、今の私はその悪臭に気づかぬふりをして、大きく息を吸い込んだ。
「っ、はぁっ、はっ……ケホッ」
それらに頻繁に足を取られながら、物乞いに捕まりそうになりながら、私はこの街の奥深くを駆けている。
腰には壊れて動かなくなった立体同装置なるものがぶら下がっているが、私を追いかけるあの男に居場所を知らせることが無いように道端にかなぐり捨てることはかなわなかった。
しかし、ここ数日、飲み食いしていない私の体はとうに限界を迎え、悲鳴を通り越し軋み始めている。身体、思考共に、今すぐにでも立体起動装置を捨てて身軽になりたがった。
「……なッ……行き、止まり……!?」
そんなことあるはずがない。
細い路地裏から、近道に使う廃墟まで、私の知らない場所のないはずのこの場所で…。
知り尽くした場所で行き止まりにぶつかるほど、私は疲弊していたようだ。
「……やっと、行き止まりか。随分、走ったな……大丈夫かい?
……そう睨まないでくれ、いきなり来たことは謝ろう」
最後の抵抗と言わんばかりに、私は汚い壁に背中を押し付け、一歩踏み出せば届く距離で歩みを止めた男を睨め付けた。
男は苦笑を漏らすと「君を探していたんだ、ジゼル」と馴れ馴れしく初対面のはずの私の名を呼んだ。
ここ最近、派手に暴れていたから、知っていてもおかしくないだろう、ましてや男は服装を見る限り兵団所属の人間なのだから。
「ハッ……人違いだ。私はジゼルなんて奴は知らない」
「君は、嘘が随分と苦手なようだね。
ジゼルでないのなら、私から逃げる必要などないのだから」
「……?
逃げる必要性はある。お前、兵団の人間だろう。
最近、暴れまわった身としては、死に物狂いで逃げなければならない相手だ」
男は少し以外そうな顔を見せた後、私に肩に縫い付けられた腕章を見せた。
そこには、一角獣のそれではなく、白と青の翼が交差していた。
その意味が分からず男に向かって首をかしげて見せると、そこで男は私が大きな勘違いをしていることに気が付いたらしい。
「これは、調査兵団、という壁の外へ遠征し巨人と戦う者たちが持つ証だ」
「ちょうさ…へいだん?」
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作者名：clear | 作成日時：2017年5月5日 21時
