169話 跡部景吾の決意6 ページ33
Aの背中が遠くなると、不二はAを追うことなく、逆に俺に向き直る。
不快感を露わにしていると思ったのだが、予想に反して不二の表情は穏やかだった。
そして「それにね」と言うと、いたずら好きの子供のように笑った。
不「それは僕たちもまだなんだから、絶対ダメ」
柔らかい口調に反した頑固な物言いに、間抜けに口を開けてしまった。そんな俺を見て、不二はしてやったようにクスクスと笑う。
その声に気を持ち直して、俺は余裕を見せるように鼻で笑った。
跡「随分のんびりしてるな」
さっきの言葉で、Aが『不二は旅行も否定しない』と思った意味がわかった。
それならばと、揺さぶりをかけてみたものの、煽ったところで不二にはまるで効果がない。
柔らかい笑みを崩さないまま、不二がAを追うように踵を返して、余裕のある声音で言った。
不「先は長いからね。焦る必要はないよ」
完全に背を向けて、不二が俺の前から去る。
その言葉に、俺は堪えきれず高笑いを漏らした。
ーーーーその余裕、絶対に崩してやろうじゃねえの。
鬱陶しいと思っていた照りつける日差しが、妙に気分を高揚させて、俺はもう一度声を上げて笑った。
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作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時:2022年8月26日 17時