151話 お淑やかにはなれない ページ15
貴「あれ？」
弓道場で着替えを済ませて外に出ると、「外で待ってるよ」と私に告げたメンバーは1人を除いていなくなっていた。
貴「不二先輩だけですか？ みんなは？」
不二先輩が体を預けていた壁から離れ、私に向き直る。
不「先に帰ったよ」
貴「え、なん……」
「何でですか」と言おうとして、先ほどの修羅場がよみがえり、私は口を噤んだ。
余計な気を回しやがって。私は不二先輩の顔を見れず、弓道場の鍵を閉めてわざとらしく先輩から目をそらす。
先輩も私の気持ちには気付いているだろう。小さく肩を揺らしながら、無言で鍵を返しに向かう私についてきていた。
そのまま、先輩は一緒に鍵を返して、自転車置き場まで私の後ろを歩いていた。時折、思い出したように小さく笑っては、私の肩が僅かに上がるのを見て咳払いをする。
自転車を解錠し、ガシャンと押し出して歩き始める。
卒業式当日の18時は、さすがにすでに生徒の姿はなく、先生もまばらだった。そこでふと、卒業式と言えば、の催しを思い出す。
貴「そういえば、打ち上げとか謝恩会はないんですか？」
自分でも思っていたよりぶっきらぼうな言い方になってしまったが、不二先輩はそこには触れずに頷く。
不「うん。部活のことがあったからね。打ち上げは明日。謝恩会は来週」
貴「そうなんですね」
由良の時は立て続けにどこかしらに行っていた気がしていたが、その時々で変わるようだ。
私が淡々と返すと、不二先輩が何度目かわからない小さな笑い声を漏らす。それを咎めるように、隣を歩く先輩を睨みつけた。
不「ごめん」
そう謝りながら、まだ声が震えている。私がまた視線をそらして無言を貫くと、少し焦ったように視線を合わせてきた。
不「勝手に話しちゃって、ごめん」
やはり不二先輩は、私が何に拗ねていたのか分かっていたようだ。さらりと告げられたことに、自分の子供っぽさが露見してしまったような気がして、恥ずかしさに顔ごとそらした。
不「誰かに言うときは、Aに相談するべきだったよね。Aも江本さんのこと教えてくれたのに」
わかっているのか、いないのか。不二先輩の表情が少し陰る。私はその顔に負けて口を開いた。
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作者名：葉奈 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時：2022年8月26日 17時
