148話 台風の目、乾貞治 ページ12
乾先輩が「ではまず手塚から……」と、イキイキと声を弾ませながら発表しそうになるのを、英二先輩が力づくで止める。
乾先輩は自分の専売特許を収められてがっかりしていたが、こんなところでプライバシーを侵害されてはたまらない。
乾「３年生だけでなく、桃や海堂、越前の記録もあるが」
貴「別にそれはバラしてもいいんじゃないっすかね」
桃海「「おい！」」
次の瞬間、桃と海堂が同時に殴り掛かってこようとするので、その手を自分の両手で止め2人を睨みつける。
貴「急に殴り掛かってくんじゃねえよ！ 動物かてめえらは！ 言葉使え！」
海「うるせえ！」
桃「てめえの変わり身が早すぎなんだよ！」
青学の母の「やめろお前ら！」の声が響くが、久しぶりということもあってそんじょそこらの引き際では止まれない。場所柄、私は引きたい気持ちはあるが、引いたら負けなきがして、お互い引き下がるのにもうひと押しが必要だ、と思ったその時。乾先輩がまたも爆弾を投下する。
乾「ちなみにAの記録もある」
海「しぬほど興味ねえ！ が！」
桃「言ってやってください！」
貴「ふざけんな！」
珍しく海堂と桃の意見の一致が見られ、乾先輩が嬉しそうにノートをめくる。
こんなプライバシーの侵害があってたまるか。私は取っ組み合いをやめ、乾先輩のノートを光の速さで取り上げた。先輩は分厚い眼鏡の奥で悲しそうな顔をしていたが、こればかりは許してもらうしかない。
しかし乾先輩がかわいそうなので、交換条件を出す。
貴「そんなに言いたいなら間を取って越前の記録でお願いします！」
越「どこの間とったんすか」
先輩に向かって、凪いだ冬の夜の海のように冷たい視線を投げかけてくる越前。「後輩だろ」と肩をたたくと、ため息をついて帽子をかぶりなおした。
越「九重先輩、昨日も校舎裏で告られてました」
貴「てめえマジ的になるか？」
越「こわっ」
越前が帽子のつばをぐっと下げて、桃たちの後ろに逃げる。
追いかけようとしたところで、視界の端にいた奏恵がなぜか片手を挙手していた。乾先輩が「はい、江本君」と指名する。
奏「一昨日も帰り際に呼び止められて告られてました。同じようなことが３学期入って数件あります」
貴「裏切りか？」
奏「友人がモテてんのがシンプルにむかつく」
貴「さつ意が端的すぎんのよ。誰にも言わん言うたやんけ」
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作者名：葉奈 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時：2022年8月26日 17時
