―― ページ5
.
というかもっと早く気づけばよかった。
休憩室、白い箱、高田さんの声。
昨日夢に見たそのままじゃない。
私は無意識に箱を抱き潰しかけていたのに気が付いて慌てて腕を緩めた。
高田さんが櫻井さんに買ってきたシュークリーム。
……一瞬だけ、床に落としてしまおうかなんて考えが浮かんだ。
すぐにかぶりを振る。
何考えてるの私。
「なに言ってんだよ。俺たちは気の合う同期だろ。奥さんなんて柄じゃないって」
「……そうね。私もそう思うわ」
冗談を笑う声と、冗談めかして笑う声がした。
私は息を吐き出す。
夢ではどうだったっけなと必死に思い出そうとするけど、不思議と顛末が思い出せない。
覚えているのは櫻井さんが告白をされているところだけ。
夢の中で櫻井さんは、どう返事をしていたんだろう。
「お待たせ加西。……加西？」
櫻井さんが戻ってきた。
声に呼ばれて、私は慌てて笑みを繕う。
「はい」
「待たせてごめんね。食べようか」
櫻井さんは私の手から箱を取り上げると張り付けられたテープを爪でひっかき始めた。
それを見ながら私はふと引っ掛かって櫻井さんの声を思い出す。
櫻井さんって、高田さんにはあんなに男っぽい喋り方するのに、私にはいつも優しい言い方なんだよね。
気を許している同期か気を遣うべき部下かの差なんだろうか。
「あれ、開かねーな……」
「やりましょうか？」
「ごめん、頼んだ」
困り顔の櫻井さんに変わって箱のテープをはがす。
簡単にテープは剥がれて、流れのまま私は箱を開いた。
「わっ、すごい」
「お、意外とうまそーじゃん」
テレビで見かけて以来ずっと食べたかった限定シュークリームが箱の中に鎮座している。
色々考えていたのに、これ食べられるんだと思うと元気が出てくるから不思議だ。
甘いものには片想いに効く成分が含まれているに違いない。
「ほら、食べていいよ」
「……でも、これ櫻井さんが食べたくて探していたのでは？」
舞い上がりかけた私は努めて冷静に櫻井さんの顔を見上げて問いかけてみる。
けれど、櫻井さんはあっさりと「いや、別に」なんて首を振った。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 207人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
iCHiKA(プロフ) - tubinさん» コメントありがとうございます！そして、嬉しいお言葉をありがとうございます！お楽しみいただけたとのこととても光栄です。今後もお楽しみいただけるよう頑張らせていただきますね！ (2021年8月24日 20時) (
レス) id: ca4476f6fd (このIDを非表示/違反報告)
tubin - すごくおもしろかったです！！ 無中になって読んでました!! 続きがすごく楽しみです!! 応援してます!! これからもがんばってください！！ (2021年8月22日 20時) (レス) id: 73a03e30c5 (このIDを非表示/違反報告)
iCHiKA(プロフ) - にゃんちきさん» にゃんちき様、いつもありがとうございます！糖度高めを目指して頑張ったお話でしたが、お役に立てたようで良かったです。こちらこそご賞味ありがとうございました。 (2021年8月21日 20時) (レス) id: ca4476f6fd (このIDを非表示/違反報告)
にゃんちき(プロフ) - 最近疲れ気味だった私には翔さんの甘さが最高のご褒美になりました。ご馳走様でした( ´ω` )/ (2021年8月19日 19時) (レス) id: 64ed16a329 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年8月15日 14時
