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遠くで鳴る音に手を伸ばす。
カチッとボタンを押すと音が止まった。
寝返りを打つ。
顔に眩しい光が当たって、俺は布団にもぐりこんだ。
……あれ。
にょきっと布団から首を出す。
重たい瞼を開けて辺りを見渡した。
そこは遊園地などでは当然なく、見慣れた俺の部屋だった。
「…………ゆ」
め。
言いかけた言葉を寸前で飲み込む。
言葉にしてしまうのが怖かった。
布団を足で蹴飛ばす。
まだ朝の冷たい空気が首筋と足首を撫でて行ってふるりと身震いした。
「さむ……」
それでもこの寒さがちょうどよかった。
妙に熱っぽい頭を覚ますにはこの方がいい。
早く顔を洗おう。
そうすれば目も覚めるはずだ。
スリッパをはかずに直接床に足をつけた。
足裏からまた冷たさが身体を這いあがる。
水栓を捻って流れ出した水に急いで手を付けた。
冷たい水が手から温度を奪っていく。
そこに残った微かな感触を奪い去るように、指先が冷えていくのを俺はしばらく感じていた。
のろのろと準備をしながら俺はお前のことを考えている。
櫻井さんと別れてからずっと元気がない想い人のことを。
お前が幸せになれることが一番の願いだった。
だけど今のお前は元気なさそうに笑っている。
寂しそうで、悲しそうで、けれど後悔だけはしていないみたいで。
かなわない思う気持ちだけが胸の中に積もっていく。
俺では彼には適わないし、俺の願いも叶わない。
わかっていることだから、悲しくなるわけではなかった。
お前を幸せにするために俺に出来ることと言えば、美味しいコーヒーを淹れることと頭を撫でてみてあげることと、話を聞いてあげることと。
そのくらいだ。
だから今日またお前が泣きそうな顔をしていたら、久しぶりにご飯の一つにでも誘ってみよう。
それが俺のお前に出来る最大のこと。
零れ落ちそうな気持は全部飲み込んで、お前の少し前を歩くこと。
……もしも隣に並んで歩いてしまうようだったら、俺はもう限界かもしれないとまだ見ぬその時を想像して俺はかぶりを振った。
「お前が好きだよ」
呟く、言葉をなぞるように。
夢が醒めたからもうその言葉は届けられない。
そう思えば風に攫われたあの言葉をお前に届けていてもよかったのかなと、言わずに後悔を選んだ自分をちょっとだけ後悔した。
(夢が醒めたら)
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iCHiKA(プロフ) - tubinさん» コメントありがとうございます！そして、嬉しいお言葉をありがとうございます！お楽しみいただけたとのこととても光栄です。今後もお楽しみいただけるよう頑張らせていただきますね！ (2021年8月24日 20時) (
レス) id: ca4476f6fd (このIDを非表示/違反報告)
tubin - すごくおもしろかったです！！ 無中になって読んでました!! 続きがすごく楽しみです!! 応援してます!! これからもがんばってください！！ (2021年8月22日 20時) (レス) id: 73a03e30c5 (このIDを非表示/違反報告)
iCHiKA(プロフ) - にゃんちきさん» にゃんちき様、いつもありがとうございます！糖度高めを目指して頑張ったお話でしたが、お役に立てたようで良かったです。こちらこそご賞味ありがとうございました。 (2021年8月21日 20時) (レス) id: ca4476f6fd (このIDを非表示/違反報告)
にゃんちき(プロフ) - 最近疲れ気味だった私には翔さんの甘さが最高のご褒美になりました。ご馳走様でした( ´ω` )/ (2021年8月19日 19時) (レス) id: 64ed16a329 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年8月15日 14時
