10.知らない ページ10
翔side
とりあえず、一番最初に目に入ったベンチの上に腰を下ろす。息切れを落ち着かせるために、深呼吸をしようとして視線を横に逸らしたとき、同じクラスの友達が目に入って、思わず動作を止めた。
手元を見てみれば、どうやらペア同士らしい。楽譜を見ながら、2人で仲良さそうに話しているのを見て、なんだか胸が苦しくなる。
俺たちは、テストのために、話すようになったとはいえ、まだ少し会話がぎこちない。無意識に自分たちと比べてしまう。
「あーあ、わたしもAちゃんと組みたかったなぁ、ペア」
思わず聞き耳を立てていると、ふいにアイドルコースの女の子が発した言葉に心臓が飛び跳ねた。
「ちょっと、本人目の前にしてそういうこと言わないでよ」
「あはは、うそうそ。だって、あの子って天才とか言われてるけど、売れた曲全部、親に作曲してもらってたんでしょ? 案外、本人は作曲下手だったりしてね」
「その噂、わたしも聞いた。所詮、親の七光りってやつでしょ」
「ねぇねぇ、もしかしたら、あの子マジで作曲出来ないんじゃない? じゃなきゃ、ここに入学してくるわけないしさー」
ーー...あいつ、いつも陰で、こんなこと言われてたのか?
「Aちゃんってさ、なんか...」
聞こえてくる会話に開いた口が塞がらない。自分が言われてるわけじゃないのに、何故か胸がモヤモヤする。思わず、同じクラスの子を凝視した。アイドルコースの中でも可愛いと評判の女の子の形の良い唇が歪む。
「ーーむかつく」
羨望、嫉妬、悪口。
ふいに、那月との会話が脳裏によぎった。
『......翔ちゃんは知ってますか、Aちゃんの噂』
『Aちゃんがここに来た理由。作曲家になる為じゃなくて、音楽を辞める為らしいですよ。無事に卒業できたらいいよって、シャイニングさんと約束してるんだって』
『ーーーは?なんだよそれ、俺たちのこと馬鹿にしてんのか...』
『でも、Aちゃんにそう思わせるほどの辛い経験を今までしてきたってことじゃないですか?僕たちと一緒であんなに音楽が好きだったのに』
『ここに来てから、翔ちゃんはAちゃんの笑った顔、見たことがありますか?』
心の内側から、ぶわっと色んな感情が押し寄せてくる。悔しくて、悲しくて、苦しい。
お前は、ずっと苦しんでたのか、A。だから、笑えなくなったのかよ。
思わず、唇を噛みしめた。
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環(プロフ) - ラビットハッチさん» コメントありがとうございます! 本当ですか! とっても嬉しいです〜! こちらこそ、ありがとうございます!! 励みになります! (2016年12月19日 3時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
ラビットハッチ(プロフ) - わー!ずっと待ってた甲斐がありました!すごい環さんの作風が大好きで、更新されるのを今か今かと待ってました!更新ありがとうございます! (2016年12月19日 1時) (レス) id: 7cb82700e8 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 翔くん大好き!!さん» コメントありがとうございます^ ^ 励みになります! 更新頑張りますね!! (2015年7月25日 10時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
翔くん大好き!! - 面白くてこの作品大好きです!!更新頑張ってください!! (2015年7月25日 9時) (レス) id: dca90fa2b6 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 夢さん» コメントありがとうございます^ ^ そういっていただけると、すごく嬉しいです〜!! 更新頑張ります! (2015年7月14日 22時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:環 | 作成日時:2015年3月10日 0時