36.優しく儚い恋 ページ36
「わざわざ買ってきてくれて、ありがとう。ごめんね、練習終わった後で疲れてるでしょ」
「いえ、気にしないでください。好きでやってるだけなので。黄瀬くんのことはひとまず置いておいて、とりあえず飲みましょう」
そう言って差し出された紙パックにストローを差し込む。テツくん曰く、みんなバニラシェイクを飲めばどんな辛いときでも気持ちがすうっと明るくなるのだそうだ。
数十分前、わたしの話を優しく聞いてくれたテツくんは、そう言ってから急いで二人分のバニラシェイクを買いにマジバまで行ってきてくれた。何年経っても変わらないその優しさに涙が出てきそうだ。
「美味しいですか?」
「まだ飲んでない」
どうやら笑わせようとしてくれているらしい。そう言って悪戯っぽく微笑んだテツくんは、わたしが少し笑ってからストローに口を付けるのを確認すると満足したらしく、僅かに双眸を細めた。
「あれ?これ、チョコレート味?」
「はい、これしか残ってなかったので。...駄目でしたか?」
「ううん!美味しいよ、ありがとう」
「どういたしまして。そういえば、Aさんもバニラシェイク好きなんですよね」
「へ?あ...うん、好きだよ」
「ボクもです。Aさん、ボクも好きなんですよ」
なんの脈絡もない、唐突な質問にびっくりしつつそう答えると、独り言でも言ってるかのように小さな声で何かを呟いたテツくんが切なげに睫毛を震わせる。その自嘲気味な声色に驚いて顔を上げれば、儚く微笑むテツくんと目が合った。
「すごく...すごく好きなんです」
「知ってる、中学の時からよく飲んでたよね。そんなに好きなんだ、バニラシェイク」
「...はい」
好きですよ、と。テツくんはもう一度口の中でもごもごと呟くと、話題を切り替えるためなのか、言葉を其処で短く切って、自分のバニラシェイクのストローに口を付ける。
たかがバニラシェイクの話題で何故そんなに切なそうな顔をするのかと思ったけれど、テツくんから流れてくる、これ以上何も聞くなオーラを感じ取ってわたしはキュッと口許を締めた。
なんだか今度はさっきとは反対にテツくんの元気がないように思えて仕方がない。今まで励ましてもらっていたお礼に今度はわたしが元気付けてあげようか。そう思って、深呼吸をしてから、俯いているテツくんに向かってゆっくりと口を開く。
ーーーちょうどその時だった。
その場を切り裂くような大きな声が公園にこだました。
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環(プロフ) - たくっちさん» コメントありがとうございます〜!! そう言っていただけると嬉しいです! ほんとにありがとうございます!! (2015年12月29日 22時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
たくっち - めっちゃ良い話じゃないですか。感動しました!これからも感動するような作品よろしくお願いします。応援してます! (2015年12月27日 18時) (レス) id: 14821b434b (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 朱いメダカ@ペンタブ禁止令さん» コメントありがとうございます^ ^ そういっていただけると、すごく嬉しいです〜!! ありがとうございます! (2015年5月12日 0時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
朱いメダカ@ペンタブ禁止令(プロフ) - 今日読み始めて一気に最後まで読んでしまいました!!凄くキュンキュンして泣けて…凄く面白かったです!! (2015年5月11日 23時) (レス) id: edbb06b586 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - にょんさん» コメントありがとうございます^ ^ ほんとですか!? すっごく嬉しいです、ありがとうございます!! (2015年5月7日 23時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:環 | 作成日時:2015年2月15日 11時