34.嫌なやつなら ページ34
「あ、青峰くんとAくん!やっときたんだ〜」
「Aっち、ありがとう!」
「俺にも礼言えよ」
こちらに気付いた二人は一瞬ハッとした顔をしてから、何事もなかったように笑顔を作って話しかけてくる。その瞬間、黄瀬くんが貰ったチョコを素早い仕草で鞄にしまうのを目敏く見つけて、自分でも表情が強張るのがわかった。
「ごめんごめん、青峰っちもありがとう!」
黄瀬くんの機嫌がさっきよりも格段に上がっていることなんて、その緩んだ顔からもうわかる。それに、何故か席を移動して、さっきわたしが座っていた場所、つまり黄瀬くんの隣りに座っているお姉ちゃんもテンションがいつにも増して高い。
ーーーデジャブだ。
わたしの好きな人はいつだってお姉ちゃんを好きになる。わかってたことじゃん。だから落ち込むな、何度も経験してるんだから今更落ち込むな。今回だって、黄瀬くんも例外じゃなかったってだけのこと...。
「げ、さつきお前今度はそっちに座ってんのかよ。しょうがねぇな...おいA。こっち座んぞ、来い」
「え?あっ、うん」
「え、嘘!?ちょっと青峰くん待ってよ、わたしそっちに戻るから」
「あぁ?」
「ごめんね、Aくん!いま席開けーーー...」
カシャン、と。お姉ちゃんが立ち上がった拍子に椅子から最初に落ちたのは見覚えのある紙袋。あっと反応する間もなく、その上にドサドサと思い鞄が落ちていく。わたしには、その一連の流れがまるでスローモーションのように見えた。
「わ、ごめん!荷物床に落ちちゃった。鞄の下にうもれてる紙袋大丈夫かな」
「あっ、桃っち!俺も拾うっス」
ふいに視線を感じた方にそっと顔を向ければ、様子を窺うようにわたしを見ていた大ちゃんと目が合った。そうだよ、その紙袋には黄瀬くんにあげるために作ったクッキーが入ってるんだよ、大ちゃん。何度も何度も焦がしちゃって、ようやく奇跡的に成功したあの...、
「Aっち、このクッキー、つぶれちゃってる...」
「え!?どうしよう、ほんとにごめんねAくん」
虚しい。いっそわざとなら、お姉ちゃんが嫌なやつなら良かった。
「え、泣いっ...?」
「ーーー黄瀬くんにあげる、そのクッキー」
「えっ?」
「どうせあげるつもりの人なんていなかったから、つぶれたついでにあげる。要らないなら捨ててくれると嬉し...」
「おい、A!」
気付くと店から飛び出していた。走れ、走れ、このまま消えてしまえ。
なり振りなんてかまっていられなかった。
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環(プロフ) - たくっちさん» コメントありがとうございます〜!! そう言っていただけると嬉しいです! ほんとにありがとうございます!! (2015年12月29日 22時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
たくっち - めっちゃ良い話じゃないですか。感動しました!これからも感動するような作品よろしくお願いします。応援してます! (2015年12月27日 18時) (レス) id: 14821b434b (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 朱いメダカ@ペンタブ禁止令さん» コメントありがとうございます^ ^ そういっていただけると、すごく嬉しいです〜!! ありがとうございます! (2015年5月12日 0時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
朱いメダカ@ペンタブ禁止令(プロフ) - 今日読み始めて一気に最後まで読んでしまいました!!凄くキュンキュンして泣けて…凄く面白かったです!! (2015年5月11日 23時) (レス) id: edbb06b586 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - にょんさん» コメントありがとうございます^ ^ ほんとですか!? すっごく嬉しいです、ありがとうございます!! (2015年5月7日 23時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:環 | 作成日時:2015年2月15日 11時