15.不穏 ページ15
試合は無事、海常が勝利を収めた。
約束通り、笠松先輩に許可を内緒で取って、指定された場所に向かう。すると、そこにはもう灰崎くんが待ち構えていた。
「よぉ、A。待ってたぜ」
「......灰崎くん?」
ーーーやけに落ち着いた声。鋭い目つき。
灰崎くんから異様な雰囲気を感じ取って、思わず後ずさると、突然伸びてきた手にそのまま乱暴に引き寄せられた。
「試合に負けたんだから、キセキとかもうどうでもいい。だから、」
目の前にある野生の猛獣のような瞳に射止められて、足がすくんで動けなくなる。「逃げろ」と、本能が叫んだ。
「ーーー全部壊しちまおうと思ってなァ」
やばい。こいつ、本気だ。
そう言い終わると同時に思いっきり強く頭をグイッと掴まれて、一気に詰まった二人の距離。混乱する頭をフル回転させてみせた必死の抵抗もむなしく、唇を奪われそうになる。
しかし、その瞬間、威勢のいい大きな声が会場の入り口に響いた。
「コラ灰崎!!」
「だ、大ちゃん!?」
大ちゃんの予想外の登場に目の前にいる人物も驚いたらしく、わたしの腕を掴んでいる力を緩めたが、すぐに逃すまいと更に強い力で掴み直した。
「......Aから手ェ離せ」
明らかに不機嫌を物語る、大ちゃんの唸るような低い声。大抵の人なら怯むところを、灰崎くんは楽しそうな表情すら浮かべている。
今の大ちゃんじゃ、灰崎くんを殴りかねない。そう思って、誰か他に助けてくれる人がいないかとあたりを見回したとき、会場の中から、こちらに向かって走ってくる人物に思わず目を見開いた。灰崎くんも気付いたらしく、その人を見て怪しく微笑んだのがわかった。
「ーーーAクン!」
目の前で立ち止まると、ゼーハーと膝に手を当てて息を切らしている黄瀬くんは、ゆっくりと顔を上げてから、わたしと灰崎くん、それから大ちゃんに視線を移して、驚いたように徐々に目を大きく見開いていく。
「黄瀬くん、体冷えちゃうから早く戻んないと...」
「それはアンタだって同じだろ!」
「選手とマネージャーは違うでしょ!それに、自分は男の子なんだから大丈夫!」
不機嫌そうな黄瀬くんは、わたしの言葉に不満そうだが静かに口を閉じた。しかし、納得してくれたのかと安心したのも束の間。
「リョータァ、マジで気付いてないのかよ」
「...なにを?」
「こいつ、どう見てもオンナだろ」
灰崎くんの言葉によって、今にも倒れそうな顔色の黄瀬くんが、勢い良く顔を上げて、わたしを見た。
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環(プロフ) - たくっちさん» コメントありがとうございます〜!! そう言っていただけると嬉しいです! ほんとにありがとうございます!! (2015年12月29日 22時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
たくっち - めっちゃ良い話じゃないですか。感動しました!これからも感動するような作品よろしくお願いします。応援してます! (2015年12月27日 18時) (レス) id: 14821b434b (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - 朱いメダカ@ペンタブ禁止令さん» コメントありがとうございます^ ^ そういっていただけると、すごく嬉しいです〜!! ありがとうございます! (2015年5月12日 0時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
朱いメダカ@ペンタブ禁止令(プロフ) - 今日読み始めて一気に最後まで読んでしまいました!!凄くキュンキュンして泣けて…凄く面白かったです!! (2015年5月11日 23時) (レス) id: edbb06b586 (このIDを非表示/違反報告)
環(プロフ) - にょんさん» コメントありがとうございます^ ^ ほんとですか!? すっごく嬉しいです、ありがとうございます!! (2015年5月7日 23時) (レス) id: 6bc2673fc1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:環 | 作成日時:2015年2月15日 11時