失楽園【波羅夷空却】 (ページ4)

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それから一週間は飛ぶように過ぎ去っていった。

新たに追加された注意事項としては『匂いの強いスナック菓子は家の外で食べる』『暖房を使う時は換気をしっかりする』などがある。まだふたり暮らしが始まったばかりでお互い気を遣っていたのもあるが、特に相手のせいで生活に不便を感じる、ということはこれといって存在しなかった。

生活施設の使い勝手もかなり分かってきた。初見のイメージからはかけ離れたほどに快適であった。トイレはウォシュレット、コンロはIHで、床暖房までついている。もしかしたら実家より過ごしやすいかもしれない。小屋の中にWi-Fiが設置されていると気づいた時はさすがに驚いたが。

ある日、Aに質問してみたことがある。

「お前、嫌じゃねェのか。こんな風に隔離されて」

彼女は顔を伏せ、震える声でこう答えた。

「嫌じゃない、って言ったら、嘘になる。…でも、仕方がないことだから」

どこか諦めたような声色に、それ以上踏み込むことは許されないような気がした。「そうか」と返事して、会話を切り上げる。その話題はそこで終わってしまったのだが。

その切なそうな声が、言葉が、いつまでも胸のどこかにひっかかっているのだ。確かに彼女の言う通り、これは集落の中では決まったことであって、それを今更どうこうしようなどというのは許されないことである。

しかし。空却は自分でも半ば無意識に、ずっと考えていた。

(────Aを、逃がしてやりてェ)