四の五の禁止 ページ33
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「 え、良いよ良いよ。重いセットは俺たちがやるから 」
「 あ、お気遣いなさらず。これでも力だけはあるので。それに、福良さんの方が重そうですから 」
刻々と迫り来るイベントと出立日。
留学に向けての準備で最近は休みがちだったが、元々そこまで顔を見せる人間ではなかったし、特に不審がられていることはなかった( ※社長は除く )。
それに予め説明している福良さんが気を使ってくれたことで、なんとかイベントの準備と大学でのことを両立できていた。
今日はそんな、イベントに向けての会場の準備だ。
会場を貸し出してくれた方や、うちが子会社ということで手伝いに来てくれた社員の方々、そしてもちろんQuizKnockからも何人か送られ、多くの指示が飛び交う会場の中で、私も一緒に動き回る。
「 ごめん、お待たせ! 」
「 あれ、伊沢さん?どうされたんですか? 」
合間合間に休憩を挟みつつ、暫く指示通り運んでは呼ばれ、運んでは呼ばれを繰り返していると、今日は撮影に行っている筈の伊沢さんが入り口に立っていた。
だが彼の「 お待たせ 」の声は会場内の喧騒に拐われてしまったようで、私だけが彼の方を向く。
「 どうされたって、勿論手伝いに来たに決まってんだろ!……って、Aちゃん!! 」
「 はいっ!!……って、なんですか。急に大声出さないでください 」
「 いや、出すでしょ!なんて重いもん運んでんの?!見てないとすぐ無理すんだから!貸して! 」
「 いやあの、別に無理してるつもりは…… 」
私の言葉は彼の「 四の五の言わない! 」に掻き消され、その隙に腕にかかっていた負荷が消えていく。
あっという間に私が持っていた荷物は彼の手に渡っていて、取り返そうにも、私がなにか言う前に彼は素早く周りのスタッフに置き場を聞いて、その方向に行ってしまった。
急に手持ち無沙汰な時間が訪れた。どうしよう。福良さん辺りに新しい指示を貰いにでも行こうか。
「 福良さん、他になにか手伝うことありますか? 」
「 ん?いや、ここはもう無いよ。多分向こうの人は手を欲してるかも 」
「 分かりました。行ってみます 」
福良さんに言われた方へ行くと、そこではなにやら高い部分の不具合を脚立で直しているようだった。
伊沢さんじゃ絶対登れなさそうな場所で、プロの方が周りに指示を出している所だった。
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作者名:朝田 | 作成日時:2021年1月6日 19時