自覚まであと一歩 ページ32
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「 ……気づいてないですか 」
「 へっ 」
鼻先が触れあうか触れあわないかのギリギリの距離で彼の呼気を感じる。
レンズを隔てた先で、彼は切れ長の瞳を猫のようにすうっと細めた。
「 ……ふっ……まぁ、そういうとこに惚れたんだろうね、俺は 」
「 ……いや、あの、え……？ 」
「 気づいてないみたいだけど、しずくさん、今�� 伊沢さん �瓩辰寅譴い討燭� 」
身を引きながらあっけらかんとした口調で衝撃の事実を突きつけてくる河村さん。
開いた口が塞がらない私は仕方なく手動で顎を閉じ、落ち着きのない手つきでアイスティーを引き寄せる。カタカタと震える指先。待て、今までの私はここまで分かりやすい人間だったか。
「 どうするべきか分かった？ 」
「 ……認めたくありません 」
「 ふーん。じゃあほんとにキスしてみる？ 」
「 遠慮します！！！ 」
「 ほら。でも伊沢なら良いんだろ？ 」
「 …………考えたこともなかった 」
「 直ぐに嫌がる要素が見つからない時点で察しなよ 」
いつもよりも鋭い言葉の数々が頭や肩、首、顔面へと突き刺さってくる。私の死因は出血多量で決まりだ。
げんなりする私と、清々しいほどの笑みを浮かべてコーヒーを嗜む河村さん。先ほどまでの哀愁漂う雰囲気はなんだったんだ。今の彼はさながら地獄を支配する魔王だ。
「 まぁある意味火付け役成功ってとこ？ 」組み合わせた指で作った顎置きにシャープな顎を乗せ、ニッコリと一笑み。火付けどころか大火事なんですけど。大火傷なんですけど。
「 ……好き、なんですか、私 」
「 多分当事者以外はなんとなく察してるよ 」
「 …… 」
好き。私が、伊沢さんを。
あまりしっくり来ない三単語が並んでしまい、頭を捻らせる。
その様子に彼は「 分かんないならまだ分からないままでも良いんじゃない 」と言って最後の一滴までコーヒーを飲み干した。氷がぶつかりあう音が妙に鮮明に聞こえた。
「 じゃ、僕はこれで 」
「 え 」
「 すみません、会計お願いします 」
「 かしこまりました 」
「 ま、待って！私も払います！ 」
急いで残りのアイスティーも飲み干し、レジに立っている彼の元に駆け寄る。割り勘だけは譲れませんから。
イベントまで、あと三週間。
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作者名：朝田 | 作成日時：2021年1月6日 19時
