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ワーカホリック予備軍 ページ4










 朝から伊沢の様子が変なことには気づいていた。

 デスクに頭をぶつけてはブツブツとなにかを呟き、かと思ったら急に「 あー!!くっそー!!! 」なんて叫び始める。
 これを変だと言わずになんというのだ。今日も通常運転だなぁ、か?流石にうちはそこまでヤバイ奴を社長には置いていない。








「 しずくさん、ここ誤字ある 」
「 あ、ほんとだ。すみません、直します 」
「 ん、助かる 」








 そして今、彼があそこまでヤバイやつになっている原因がなんとなく分かってきた。

 オフィスにやってきてから一度だって伊沢と顔を会わせていないしずくちゃんと、そんな彼女と親しげに会話を交わす河村。
 少し離れたデスクでは、その光景を割り込みたくても割り込めない伊沢が眺めており、今にもハンカチを口に咥えて「 キーッ!!!! 」と言いそうな顔をしている。

 一昔前の恋愛漫画じゃあるまいし。




 それらを第三者として観察していれば、大抵の人間は状況を察することが出来るだろう。
 あぁ多分、あそこ三人の間でなんかあったんだろうなぁ、って。








 ―――ガタッ







 あまり良い空気は漂っていない三人を遠巻きに見ていると、突然、伊沢が大きく音を立てて椅子から立ち上がる。
 それに対して露骨に肩を跳ねさせたのがしずくちゃんで、妙に冷静なのが河村。他の人は皆俺と同じように伊沢へ視線を送っただけだった。

 伊沢は顔に影を落としたまま、デスクを見つめ続ける。
 なんだ、また突拍子もないことを言い出すんだろうか。








「 ……撮影、行ってきます 」








 いや撮影かーい。

 あれだけ深刻そうな雰囲気を漂わせておいて、テレビの撮影。
 いや撮影も確かに大事だよ?大事だけどさ?多分ここに居る殆どの人間は拍子抜けだって思ったと思うよ。最悪社長辞めるとか言い出すんじゃないかと思ったよ。



 まぁでも、伊沢にとっては仕事が息抜きのようなものだ。
 ワーカホリックとまでは行っていないと思うが、それに近しいものはやはり感じる。
 恐らく自分の気持ちを整理するために、早めに現場へ向かうことにしたのだろう。


 時間だって、まだ予定より一時間も前だ。








「 ……はぁ 」








 しずくちゃんの重々しい溜め息が耳に届く。
 見ると、いつも止めどなく動かされている指先が、今日は定期的に停止していた。

 ほんと、どいつもこいつも分かりやすい。









ペルソナで隠しても→←アイコンタクトは不可



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作者名:朝田 | 作成日時:2021年1月6日 19時

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