優しさが留める過去 ページ27
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「 ……貰えませんよ。伊沢さんが一生懸命取った物なのに 」
「 なに、そんなこと気にしてたの？ 」
そんなことって。私のとっては重要なことだ。
こういう彼の熱意が籠った品は、もっと、本当に大切だと思っている人に渡すべきだ。
目を逸らした私の正面で、伊沢さんがしゃがみこむ。
彼の腕の中に居るカラスの透き通った瞳と、伊沢さんの双眸が、私を射ぬく。テレビで見るような鋭さはない、日向のような眼差し。
日陰でしゃがみこんでいるような地味な私さえ簡単に見つけ出してしまうその眼差しが、今は酷く眩しい。
「 俺はそーゆうAちゃんの優しいとこが好きだけど、たまにさ、その優しさが不安になるよ 」
「 別に、優しくなんか 」
「 そうやって自分を卑下しちゃうのも、あの男が原因なんでしょ 」
彼がこうやって直接あいつの名前を出すのは初めてだった。
ゲームセンターの騒音に拐われるかと思ったけど、案外鮮明に聞き取れてしまって、きゅっと唇を引き結ぶ。
確かに、私がここまで卑屈になったのはあいつの影響でもあるのだと思う。
だけどそれと同時に思うのが、元から自分はこういう人間だったんじゃないかということ。
あいつと出会う前から私は影が好きだったし、どこか周りを達観していて、まるで自分は他の人間と違うような、自分は周りよりも数段大人な気がしていた。
あくまであいつは切っ掛けであって、卑屈になる要素なんて、幾らでもあったんじゃないかなって。
「 ……きっと、 」
「 うん 」
「 元々、私はこういう人間なのだと思います 」
私がそう言葉にすると、彼は露骨に悲しげな表情を浮かべて、私の髪に手を添えた。
彼にこんな表情をさせてしまっている要因は、なんなのだろう。私が余りにも哀れだからだろうか。私が手に余るほど面倒くさい人間だからだろうか。
ほら、分かったでしょう。どう頑張ったって、私は自分を卑下することしかできない、マイナス思考の女なんです。
「 それはさ、自分に自信がないってこと？ 」
「 どう、なんでしょう。自信が無いというより、自信を持てる部分がないんですよね。昔から夢もなにもなかったから。自分には勉強しか無いのかなって思っても、結局上には上が居ますし。そうなると、私が私でなければならない要素なんて、一つも無いんですよ 」
あー流石に伊沢さんも面倒臭いって思っちゃったかなぁ。
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作者名：朝田 | 作成日時：2021年1月6日 19時
