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タクシー違い ページ22









「 ……雨 」







 大学の帰り道。今日の夕飯を買いに行きつけのスーパーに寄って店を出ると、いつの間にか外では大粒の雨が降り注いでいた。

 今日も例外無く、私は傘を忘れた。
 店に戻って傘を買うのも悪くないのだが、その為だけに500円以上の出費をするのは痛い。貧乏大学生にとっては生死を分ける選択だ。



 特にこれから何があるってわけでもないので、考える余地は十分にある。
 さっさと帰って晩御飯を作るか、止むまで待つか、はたまた……タクシーは無い。傘で渋っているのにタクシーなんか乗れる訳がない。








「 Aちゃーん!迎えに来たよー!! 」
「 ……別のタクシーが来たな 」








 駐車場から雨音に混じって聞こえてくる大声に、周囲の人間は訝しげな表情で声の方を見る。

 私はと言えば、彼の言う『 Aちゃん 』が自分であることを心の底から悔やんでいた。
 いや、彼が来る可能性を考えなかったわけではない。ただあえて考えないようにしていただけであって、頭の片隅では愛車を乗り回す社長の姿があった。

 だからってこの状況で「 あ、社長。お迎えありがとうございますぅ 」なんて出ていけるわけがない。
 だって、恥ずかしいだろ。明らかに変人認識されてるあの人の知り合いとして車に乗り込む度胸は私にはない。









「 ……あ、福良さん?はい、はい、今はスーパーに寄ってますね。はい 」








 いくら変人とは言え、完全スルーするのは少々心が痛むような痛まないような気持ちだが、今後もこのスーパーを心置きなく利用させてもらうためだ。手段は選べない。

 適当にスマホを耳に当てて、繋がってもいない電話が恰も繋がっているように振る舞う。
 このまま長話( をしてるフリ )でもすれば、忙しい彼はすぐにでも帰ることだろう。お詫びは明日オフィス行ったときにでもしておこう。









「 Aちゃん? 」
「 はいぃっ?!? 」









 我ながらいい案を思い付いた。
 束の間の安堵と共にそんなことを思っていると、突然トントンと肩を叩かれて、私の肩はアニメの演出並みに跳ねる。口から心臓が飛びそうになるとはこの事かと身をもって分からされた。

 びびり倒しながらも知りたい欲には勝てず、背後に顔ごと視界を移動させる。
 そこに居たのは、僅かに肩と髪を濡らした伊沢さんだった。









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作者名:朝田 | 作成日時:2021年1月6日 19時

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