アイコンタクトは不可 ページ3
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「 ……おはよう、ございます……社長 」
「 お、おはよう、Aちゃん 」
結局彼女が目の前に現れても、する顔は決まらなかった。
ぎこちなく笑顔らしきものを顔に貼り付け、震える右手をあげて挨拶を返す。
好きの反対は嫌いではなく無関心。本当にその通りだ。
以前までは顰めっ面でも呆れ顔でも無表情でも、一度は俺を視界に入れてくれていたのに、今日の彼女は一度だってこちらを向いてくれない。
ピリッと、心の奥底が痛む。
あぁ、今俺、ちゃんと笑えてんのかな。
「 おはよ、伊沢 」
「 ……おはようございます、河村さん 」
Aちゃんと一緒に入ってくるのは、やはり河村さんで。
思えば勘づくタイミングはいくらでもあった。
前までは接点すら無かった二人が、ある日を境にして急に一緒に出勤してくるようになったし、オフィスでも親しげにしているし、距離だって近い。
―――< 初めてだったみたいだよ、彼女 >
それに、あの内容。俺の想像力が豊かすぎるとかそういうのじゃなくて、あれは絶対、そういうことだろう。
好きな人のそういうことを知ってしまって、どう接しろと言うのだ。
今だって大人げないと分かっているけど、頭の中は嫉妬で一杯一杯だ。大切な仲間である彼にさえ「 がるるる 」と威嚇してしまいそうで、自分でもどうしたら良いのか。
「 あー!!くっそー!!! 」
「 伊沢うるさい。静かにして 」
「 すんません 」
頭をグシャグシャにかき混ぜて、デスクに突っ伏す。
恋というのはこんなにも難しいものなのだろうか。
そりゃそうだよな。日本だけでも一億二千万もの人間が居るのに、その中で「 好きだ 」と思える人に出会って、しかもその人に同じく「 好きだ 」と思ってもらうなんて、どれだけ確率が低いと思っているんだ。
―――『 料金は愛の告白で良いよ 』
だからこそ不器用なりにアピールしまくったつもりだった。
確率が低いからなんだ、そんなの俺がひっくり返してやる。そんな意気込みでずっと突っ走っていたけれど、相手に幸せになれる場所があるなら、それを壊してまで俺のものになってほしいとは思えない。
好きだからこそ、彼女の幸せを壊したくない。
だって、俺自身が、居場所を壊されたくないから。
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作者名:朝田 | 作成日時:2021年1月6日 19時