上手く行かない ページ15
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昔から自分の容姿には自信があった。
そして今、この世は容姿さえ良ければなんとかなる。つまり私にぴったりの世界というわけだ。
小学校の頃から頭は良くなかった。学期末テストとかは下から数えた方が早いくらい。
けれど、毎日周りに愛嬌を振り撒いていたらそんなこと気にもならなかった。友達は自然と寄ってくるし、男だって寄ってくる。
告白された回数だって、もう両手では数えきれない。
頭が良いからなんだ。結局、容姿が整っていなければ人並みの幸せすら手に入れられない。
将来役立つかも分からない知識を増やすくらいなら、私は自分の容姿を磨くことに全身全霊をかけたい。
「 初めまして、白石さん。雫石です 」
あの人―――雫石Aに会ったときも、なんて可哀想な人だろうと思った。
髪は茶色に染め上げて一見陽キャを演じているけど、動作の端々から滲み出る影の人間の香り。私とは住む世界が違う。こんな地味な人生は絶対に歩みたくないと思った。
それからも、彼女は大学が忙しいだとか掛け持ちしているバイトに顔を出さなきゃとか言って、常に忙しそうにしていた。
時間が有り余っている私とはまるで逆。
ウザかった。私より劣ってるくせに、充実した日々を送っている彼女が。
「 流石に暴力は駄目だと思いますよ 」
決め手は、雫石Aを守るようにして現れた男の存在だった。
別にあの男のことは好きでもなんでもない。
ただ気に入らなかった。
私には、本気で守ってくれるような男は今まで一人だって居なかった。
なのにこの人には、守ってくれる男が居る。
どうして?
私の方が何倍も可愛いのに?
どうしてこの女にはそんな相手が居るの?
意味わかんない。
「 ―――、―――? 」
「 ――?――― 」
窓の外で伊沢さんとあの女が話しているのが見える。だがすぐにこちらへ背を向けると、二人仲良く、相合い傘をして雨の中消えていってしまった。
本当に、なにをしても気にくわない結果に辿り着く。
折角あいつの鞄から折り畳み傘を抜き取ってやったのに、どうしてもっと悪い結果にならない。
なんであの人には、びしょ濡れになってまで迎えに来てくれる男が居るの。
「 ……ほんとうざい 」
今私が掴んでいるのは、雫石と書かれた制服。
これを隠したら、あの人はどんな反応をするのだろう。
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作者名:朝田 | 作成日時:2021年1月6日 19時