Blue Ocean ～青色王子に夢中～ (ページ39)

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とある新米探偵の誤算６ページ39

俺は背中に近づいた。
男は、何やら模型のようなものを作っているようだ。
時々サッと上へかざされる部品。
それを持つ指が、やたらと綺麗なのが、まず第一印象。

そして、こんなにも近づいている俺に、まったくの警戒の色がない背中。

(おいおい、セキュリティ会社の人間がそんなんでいいのかよ)

俺なら、何の面識もなくいきなりここまで近づかれたら、振り返りざま蹴りを入れる準備くらいするけどな。

「？」

耳から白いヘッドホンがぶらさっがっているのが見えた。

あれ、のせいか。

それにしても、わずかな音くらい入るはず。
こんな近くで声もかけたし、ヘッドホンから漏れる音だって大音量って感じじゃない。

それだけ作業に没頭してるってことなのだろうか。

俺はため息をついて、そっと男の肩に手をおいた。
少々驚かせてしまうかもしれないが、仕方ない。

しかし、俺の手に気づいた男は、驚くそぶりもなく、くるっとこちらを振り向いた。

ただ、それだけだった。

「あ…」

「…………」

黒縁メガネから男の瞳が俺をじっと見ていた。

何の動揺もないまっすぐな視線に、プロの探偵だからと仮面をつけたはずの俺は、次にする行動を完全に見失ってしまった。

(な…なんだよ)

そんな自分に狼狽えていたら、男がヘッドホンを外して体ごとこちらに向いた。

「何のご用件でしょうか？」

「え？」

綺麗な顔立ちに似合う、少しハイトーンの声。
落ち着いて問いかけられた言葉に、鼓動が鳴った。

『とても綺麗な方でした』

お嬢様の言葉を思い出した。

(そういうことか。確かに美人だな)

って、俺何考えてるんだよ？！

前にいるのは男！男だぞ！！！

何がおこっているのか、わからなかった。
ファーストコンタクトででこんなにテンパったのは、生まれてこのかた、女にだってなかった。

(っていうか、何をテンパる必要があるんだよ？)

俺の変装は、こいつのまっすぐな視線でいとも簡単に崩されていた。