【忍たま】記憶を拭う弐 (ページ15)

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鼻いいんだね、困ったな。ページ15

｢…少ない｣

自身が仕掛けた罠を見て、喜八郎は舌打ちをした

思っていたよりも罠に掛かった人数が少ない

作戦では、まずここの一帯で人数を減らし、相手に負傷させる予定だった

罠を確認するとほとんどが発動済みで、喜八郎は違和感を覚える

｢…おかしいなぁ｣

今回仕掛けたのはその場で捕獲できるものや動きを止めることが出来るものばかりだ

それに加え、仲間が助けられないように上手い具合に位置、タイミング等を調節して仕掛けたはずなのに、いくつかの罠は無人になっている

喜八郎は呻き声が聞こえてくる落とし穴へと近付いた

簡単には出られない深い落とし穴

いくつかには穴の中に尖らせた竹を立てて確実に命を奪うものもあるが、この落とし穴は確か違ったはず

そう思って喜八郎は穴を覗き込んだ

中には男が一人、上向きで倒れ込んでいた

喜八郎は頭の中に浮かんだ疑問を尋ねようと口を開くが、男の様子を見て、ピタリと動きを止めた

｢…あー…あ…う…｣

男の呻き声は、落ちたことによる衝撃から発せられているというより、思考が上手く回らず意味も無く漏れているようだ

顔は若干黄色く、目の焦点が合わない

薬が注入されているのは一目瞭然だった

｢そこの人、聞こえてますか〜？聞きたいことあるんですけど｣

喜八郎が声を掛けるが、男は見向きもせず、無意味な音を漏らし続けている

困ったな、まさかここにいる奴ら全員薬漬けなのだろうか

喜八郎が諦めてそこから離れようとした時

｢…っ！｣

喜八郎の鼻を、苦いような酸っぱいような、独特な臭いが微かに刺激した

反射的にに太い木の枝へ飛び乗る

今のは間違いなく毒薬だ

毒薬＿＿喜八郎の頭の中に、Aが言っていた要注意人物が思い浮かぶ

もし周辺にいるのならば、今、ここで＿＿

｢え、反応早い。ほとんど吸ってないだろ、今の｣

突如聞こえた男の声に、喜八郎は鋭い目付きで鋤を構える

｢鼻いいんだね、困ったな。せっかくの毒を吸って貰えないじゃないか｣

男はこの場に相応しくない穏やかな笑顔で言った

こいつが要注意人物なのだと、喜八郎は直感で思った

男は笑みを絶やさぬまま落とし穴の中を覗く

｢おっと、この人はあの薬に耐えられなかったのか、それとも体質的なものか……こうなるのか、面白い｣

穴の中の男をまじまじと観察、分析する男に、喜八郎は音も無く飛びかかった